第11話 帰宅
最寄り駅につくまでが、こんなにも長い。大した距離でもないのに。
駅前の弁当屋に寄った。
弁当を二つ買う。
そして走る。
こんなに本気で走ったのはいつ以来だろうかという勢いだ。
自宅のボロアパートのドアの鍵を開けると、果たしてルゥさんはそこにいた。
部屋の隅っこで、丸くなって眠っていた。
身に着けているのは、土日に買ったものではなく、最初に渡した、サイズの合っていない俺の使い古しの部屋着だった。買った分を着ればいいのに。
キッチンスペースを見れば、食事の用意がされていた。
手の中の弁当の袋と見比べる。
帰ってから作ってくれたんだろうな。疲れてたろうに。
なるべく起こさないようにしよう、と思ったが時すでに遅し。
「あ、浩一郎サン。お帰りなサイ」
少し寝癖をつけて、はにかみながらルゥさんは体を起こした。
「知らない間に寝ちゃってまシタネ。ごめんなサイ」
ふにゃっ、と笑う。
俺は泣きそうになっていた。
家に誰かがいる、それだけのこと。
それだけのことがただ嬉しい。
こっそり鼻水をずずっとすすり、
「夕飯、作ってくれたんだね。ありがとう」
「勝手に色々借りちゃいまシタ」
と、そこで、俺がコンビニ袋を持っていることに気付かれた。
それが何かしら食べ物ということもこの数日の経験でわかってしまっている。
ちょっと困った顔のルゥさん。
そういう表情は珍しい。
この子にはいつも笑っていてほしい、なんてことを思った。
「弁当買ってきたけどさ、これは明日の朝に食べよう。俺、ルゥさんの料理が食べたいよ」
「そうデスか? それはとても嬉しいデス」
「ああ」
俺もその笑顔が見れて嬉しいよ。
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