第8話 面談


 変わらぬ母校の、変わらぬ職員室の片隅の応接スペース。

 ルゥさんと俺は、そこで年配の学年主任とほぼ新任みたいな担任の先生と面談していた。どちらも女性の先生だ。

「お久しぶりですね水元君」

「ども。ご無沙汰してます。今は学年主任なんすね、佐々木先生」

 学校は変わらんでも先生は随分老けたなあ。俺が三十路前なんだから当然か。

「ええ。月日が経つのは早いものですね。あのやんちゃ小僧が保護者役ですか」

「ちょっ、勘弁してくださいよ!」

「あの時どれだけ手間をかけさせられたと思っているのですか。これくらいは当然の権利です」

「あの」

 と、もうひとりの若い女性の先生が、

「おふたりはお知り合いなのですか?」

「ええ。この子も中学の卒業生なのです。3年次の担任だったのですよ、私は。昔話はまたいずれ時間のある時でいいでしょう。水元君、こちらがルゥさんの担任になる加藤先生です」

「か、加藤です! よろしくお願いします!」

「加藤先生、落ち着きなさい。水元君は顔は怖いですが性格は昔からすれば随分まともになっていますから、そんなに怯えなくて平気ですよ」

「佐々木先生!?」

「冗談です」

 真顔で言ってたじゃねえか。


 面談はまあ、所属クラスについてだったり、授業のカリキュラムだったり、昨今の高校受験のシステムだったり、アレルギーの有無の確認だったりとか、なんか色々だった。先生って大変だなあ。


「それでは、ルゥさんは日本語の読み書きは大丈夫、ということですね」

「ハイ。オジサマに一通り教わりまシタ」

 親父すげえな。ちょっと、いやかなりびっくり。

「オジサマ、というのは? 水元君のことかしら?」

「イイエ。浩一郎さんの、御父様デス」

「ええと?」

 佐々木先生と加藤先生がよくわからない、という顔をした。

 うん。わかんないだろうね。

 俺もあまりわかりたくない状況なのだ。


「詳しく説明しますね」


 俺が、ルゥさんのこれまでの生い立ちを説明すると、先生方は涙をにじませた。

「よくわかりました。水元君のご両親が後見人、というお立場なわけですね」

 目尻の涙をハンカチで拭いながら佐々木先生が頷いた。

「その通りです」

「それでは、水元君とルゥさんは、どういったご関係なのですか?」

 そこだけは端折ったんだけどやっぱりだめかー。訊いてくるわな佐々木先生も。。

「許嫁デス!」

 俺が何か口を挟む隙など一切なかった。半ば食い気味みルゥさんが答えた。


 次の瞬間。


 涙を滲ませていた担任と学年主任の目がギラリと光った。

「どういうこと、ですか?」

「詳しく説明していただけますか?」


 ひっ。

 怖っ。


 一応、両家の父親同士のした約束であること、ウチの馬鹿両親が放浪しているため同居はしているが、何もしていない(当たり前だ!)といったことを説明してどうにかこうにか了解してもらった。納得はしてなさそうだったけど。


「水元君、先生は、信じていますよ」

 信じてねーだろその顔は! 佐々木先生!! 保護者のつもりですってば!


「ルゥさん、何かあったらすぐに先生に言ってきてくださいね」

 加藤先生も! 聞こえてますよ!!

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