第3話 約束
俺は中学三年の夏休みだったかに、親父の「冒険」に付き合わされ、遭難したことがある。洒落でも冗談でもなく、ガチの遭難だ。
親父の職業は「冒険家」。
何をするオシゴトなのかは三十路が目前になった俺にも未だに皆目見当がつかない。ついでにお袋の職業は「写真家」。こっちはまあわかる。親父と二人で国内どころか世界中を放浪して俺のことをほったらかしにしてくれていた事については全く理解できないが。
で、遭難の話。
遭難した先で俺と親父が一命を取りとめたのは、ルゥさんの親父さんであるウォンさんのおかげなんである。その時、親父同士は意気投合して、生まれたばかりのルゥさんと、意識不明状態の俺を「結婚させようぜ! 許嫁だ! ヒャッハー!」となったらしい。
ここが一番理解できない。
「ですカラ、浩一郎さんと私、はじめましてじゃナイですからネ!」
ああ、それでか。それでさっきちょっと表情暗くしてたのか。
「
満面の笑顔ですげえこと言うなこの子。
本気で言ってるし、俺が拒否するとかは考えていないらしい。
だが、この子は恩人のウォンさんの忘れ形見だ。
「許嫁云々は一旦さておき、親父と俺の命の恩人であるウォンさんの娘をほっとくわけにはいかない。ウチの親父も後見とか支援とかするつもりみたいだし」
俺の話をコクコクと頷きながら聞くルゥさん。つぶらな瞳がキラキラしていて宝石のようだ。というか宝石以上だ。
「だから、当面ウチに住んでもらうのはオッケーです。許嫁云々は一旦さておき、な」
大事なことなので二回言っておきました。
このルゥさんを不自由なく生活させてやる義務はあると思う。俺にも親父にもウォンさんには返しようのない恩があるのだから。
「ありがとうございます!」
それにしても、である。
「婚約の誓いのキスって言ったって、生まれたばっかりの君と意識不明の俺がしたんでしょ?」
関係ない、という風にルゥさんは首を横に振った。笑顔のままに。
「契約は完了していますカラ! 後は履行するのみデス! ネ!」
そうかー。マジかー。契約かー。
十五歳差は流石にちょっとなあ。
というか、初対面――じゃなくて会うのが二度目(しかも初回の記憶はない)の俺と結婚することについて、なんでこの子はこんなにもポジティブなんだ? だいたい俺のことなんか何も知らないだろうに。性格も何もかも。
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