第1章 褐色美少女が俺の嫁?

第1話 玄関前

 3月末。

 地獄の決算月の鬼のような予算数値ノルマを課員総出でどうにかこうにかクリアした帰り道。明日が土日でよかった、と心底思う。ダラダラして英気を養おう。

 経理部の連中は集計業務で休日出勤だろうな。可哀想に。ご愁傷様だ。


 コンビニで買った弁当片手にボロいアパートの錆の浮いた階段をカンカンカンと上がっていく。2階の一番奥が俺の住んでいる部屋だった。

 ひとりの部屋でひとりメシを食って寝る。。もう慣れてる。


「んん?」


 ウチの玄関前になんかゴミが置いてある。ように見える。

 俺は生来細い両目をさらにぐっと細めて確認する。眼鏡をかけてはいるがこれは伊達だ。視力は裸眼で両方2.0ある。

 白い布の塊? のような? やっぱゴミか?

 迷惑なことをする奴がいるもんだ。溜息混じりに近づくと、ゴミが動いた。


「うひょっ」

 あんまりびっくりして変な声が出た。

 ソレはゴミではなく、人だった。


「あ」

 ぱっと顔を上げたそいつ――女の子だった――は、俺を見るなり花が咲いたような笑顔になった。安堵混じりではあったが、十分可愛らしい笑顔だった。

 見た目はまだ全然幼い。

 日本人離れした目鼻立ち。

 ただし誰がどう見ても美少女だった。

 立ち上がってみても150センチにすら全然届かない身長を、めいっぱいにして、その子は俺に対して、


水元浩一郎みずもとこういちろうさん、デスカ?」


 とややカタコトの日本語で問うてきた。

 何故俺の名前を知っている?

 じわり、と嫌な予感が汗となって背筋を伝う。

「そうですけど……」

「私は、ルゥ、と申しマス」

「ルゥ」

 カレーみたい。いやそうじゃない。

「オジサマ――浩一郎さんの御父様から、手紙を預かってきてマス」


 親父……。

 今度の面倒事はなんだ、借金じゃねえよな。

 腹違いの妹の面倒を見てくれ、とかか?

 うわあ、超ありそう。お袋はこのこと知ってんのか?

 などとつらつら考えていると、ルゥさんは深く頭を下げた。


 そして、実に簡潔に、だがとんでもない宣言をした。


「私は、浩一郎さんの、許嫁デス。不束者ですが、宜しく願い致しマス」


 妹じゃなくて許嫁そっちかーい!!

 いや、そっちかーい、じゃねえんだわ! この子まだ10代じゃねえか!

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