6 サンタのおじさん。

 



 小さかったころ、おれは毎年。

「サンタさんにも贈り物をあげるんだ」って。イブの夜に、トナカイの鈴の音を待っていた。


 暗い部屋が怖かったからソファーの周りに、お気に入りのおもちゃを集めて。サンタさんに、ビスケットとミルクを用意して。

 トナカイには、ニンジンスティック。それが効いたのかもな。今日の無理な頼みを、おじさんの元相棒に聞いてもらえたのは。



 そうやって毎回、楽しみにクリスマスを待っていたけど、結局いつもサンタさんが来る前に眠ってしまった。

 気づくと朝で……大事に抱えてた、サンタさんへの贈り物がなくなってて……。



 それが欲しい物の代わりに『サンタになりたい!』って願いごとをした年の、クリスマスイブ。おれが眠ってしまう前に。

 魔法の袋の上に赤と白の、あの服や帽子を載せて。おそろいの衣裳を着た、おじさんが現れた。



『これは、私が若い頃に着ていたものなんだ。私はもう、この通り。こちらは着られなくなってしまったからね』



 いつもとは違って、かしこまった口調でそう言った、おれの、太っちょのおじさんが。

 本当に、サンタクロースだったんだ。





「これは、預かり物なんです。おれが、本当のサンタになった時までの」


「それでアンタはサンタにはなれなかったから、返さなきゃならないってワケね」


「ルージーン。もうちょっと優しく……は、できないわよね」



 プディさんが自分で言って、くすくす笑う。おれもプディさんにつられて笑ってしまった。


 だってさ。

 優しくしてたらキャロさんも、ここまでおびえないだろう。さっきからおれ以上に、ルージーンの一言に、おろおろしてるんだから。



「笑う元気はあるようね。それじゃ、行くわよ、ゼント」



 いつの間にかルージーンの前から、カップケーキもミルクもなくなっていた。お茶の時間は終わったらしいけど。



「行くって……どこへですか?」







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る