4 おかえり。

 




「みぎゃーーっ!! ぎゃッ、たすケっ!」



「助けて!」の言葉に、おれとキャロさんにプディさんが、幅の狭いドアに向かう。


 その先のこれまた狭い廊下に三人も入るから動けない。キャロさんがノブに飛び付いたけど、なぜかドアが開かないし。

 ドアに付いた窓からは、建物に囲まれた庭が見えた。葉を落とした木の上にあるのは、ツリーハウスだ。


「キャロ、逆! 反対に回してる!」


 プディさんの一言でドアが開き、キャロさんが転がるように飛び出す。おれもプディさんに押され、本当に転がりかけて、落ち葉の中にひざをついた。



「まったく! 何してるの、このバカは!」



 知らない声に、顔を上げる。

 ツリーハウスの下、落ち葉の積もった中に、真っ白なネコがいた。毛が広がって、そこだけ綿雪が積もってるみたいだ。もしかして。



「ルージーン……」と、プディさんがつぶやく。



 真っ白いルージーンの前足の下には、しましまの問題児がいた。頭を押さえ込まれ動けないチビスケが落ち葉に埋もれて、もがいている。

 後ろ足としっぽをばたつかせ、モゴモゴ言ってるチビスケには悪いが、ちょっと笑えた。



「おとなしくしなさい!」


「あの、ルージーン。あの、その……」



「何よ?」と、キャロさんをにらみ付けた紫の瞳が、ナイフみたいに光る。


 怖っ。しゃべるネコが母親か同居人じゃなくて、よかった。

 たじろいたキャロさんの代わりに、プディさんが前に出る。



「あのね、ルージーン、落ち着いて。このゼントくんが、その子の」


「アンタね!」



 って、おれを見た瞳が、さらに細くなってた。まるで、アイスピックだ。



「あいさつひとつしないで、飛び掛かって来るなんて。しつけがなってないわ!」



 え?



「礼儀知らずもいいとこね。どんな教育してるわけ?」



 あれ?



 その時、怒鳴るルージーンの足の下からチビスケが脱出した。体を盛大に振ったせいで枯れ葉が舞う。



「アタシの毛が汚れるでしょ、バカ!」


「ゴメンなさーーい! 仲間に会えたの、初めてだったンだよーぅ」



 情けない声で謝りながら、チビスケが、おれに駆け寄って来た。

 あ、もしかしなくても、これって……。



「じゃあ、この子は、ルージーンの」



 そこでこの発言の危険性に気付いたみたいだけど、遅いよ、キャロさん……。



「アンタたち、バカげた勘違いしてるんじゃないでしょうね?」



 これは。絶対にヤバイ。






 

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