3 サンタの袋

 


 


 サンタがプレゼントを入れて運ぶ白い袋には、色々と特別な機能が付いている……らしい。


 落第者はその機能の全部を知らない。でも有名な話だし、資質を見るために、いくつかは授業で教わった。

 サンタの袋は、魔法の袋だ。あちこちにつながっていて、予定外で予想外の品物を取り出すことができる。臨機応変、ってやつだ。



『君のおじさんも、よく使ってたからなア。くせが付いたのかもネ』



 とは、下見やらでいそがしくなる時期に、この街まで送ってくれた、親切なトナカイの話だ。



 おれがチビスケを床に下ろし、売り物には勝手に触るなと注意している間に、キャロさんがプディさんに魔法の袋の簡単な説明をした。



「それじゃあ、場所は関係ないのね。そういえば今朝、配達の途中で、路地を走ってくルージーンを見たの」


「え、走ってたの? めずらしい! そういや、午前のお茶に現れなかったから変だとは思ってたんだ……でも……さ」



 キャロさんがまた、口ごもる。どうにも信じられないという感じだ。

 それでも聞かなきゃならない。チビスケをいつまでも連れ歩くつもりはないんだ。これからどこに行くってわけでもないけど。



「その、ルージーン……さんって、しゃべるネコなんですね? 二足歩行じゃないほうで、見た目は普通のネコの」



 そうか! あれは、ルージーンの出入り口か!



 店の入り口のドアの下の所に、くぐり戸が付いてるんだ。チビスケがさっきから、何度も出入りして遊んでて……。



「あれ? あいつ、どこ行った?」



 すぐに見渡せる狭い店内から、チビスケの姿が消えていた。

 キャロさんがカウンターの中をのぞき込み、プディさんが「二階かしら」と階段を見上げる。おれも前屈みになって、椅子の下を確かめた。


 あ。裏手に続いているらしい階段脇のドアにも、くぐり戸が付いている。

 まったく。勝手に、ちょろちょろすんなよな。



「キャロさん、すみません。向こうに行ったのかもしれません」



 おれが椅子から腰を浮かせた時だ。

 暖かい店内で、全員を凍りつかせる絶叫が、店の裏から聞こえたのは。






 

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