5 星の使い
「どう言ったら、いいのか……」
星の使いだ。
と、エルノに話したのは良いものの、クシロは上手い説明が何も浮かばないまま、話し続けた。
「天使というのは、神と天国の使い、ですね? 星の使いというのは、天の星を司り、天を治める神の使いで……」
それだと天使と同じでは?
そう思うとクシロはエルノに分かってもらえるか、不安になった。
クシロは自分の仕事についてはよく分かっているつもりだが、天使が何たるかについては詳しくない。それとは逆で、天使についてはエルノの方がよく知っているのだろうが、星の使いについては今日知ったばかりだ。
二つの違いをよく分かっていない自分の言葉で大丈夫なのか心配にはなったが、だがそれでもクシロは説明を続けた。
「願いを叶えるため、その人に代わって、天帝……天の神の元に、願いごとを届ける仕事をしているんです」
話しつつ、クシロはトランクのかたわらに、ひざを着く。
いつも持ち歩いている仕事道具を見てもらえれば、少しはわかりやすいのではないかと思い付いたのだ。いつもならポケットに入っているもの、今日は旅支度で鞄に入れていたものを手に、立ち上がる。
「例えば、この短冊という紙に。願いを書いたもの、を!」
「まあ! あらあら、大変!」
エルノがそう言ったのは、トランクから取り出された色とりどりの短冊が、めずらしくて美しかったからではない。
短冊を手にしたクシロが立ち上がった勢いで、出窓にあった花瓶をひじに引っかけ、中の水を思いっきりかぶったせいだ。
「すみません、水が! 花瓶は割れてませんか? 贈り物は?」
濡れた肩に白い花を載せたままクシロが聞くものだから、エルノは笑った。
「大丈夫ですよ。それより、タオルと着替えを用意しましょうね。暖炉で服を乾かせるように」
着替えはあります、と言おうとして、トランクの中を見たクシロは苦笑いを浮かべる。
茶色の旅行鞄の、よりによって着替えを入れている片側が、水やりが終わったばかりの花畑のようになっていたのだった。
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