4 天使にお願い

 




 絵本やメッセージカードに挿絵を描くのが、エルノの夫の仕事だった。

「画家というほどでもないさ」が口癖で。絵を描くこと、絵筆を動かすことが好きだった。いつも、にこやかに仕事をしていたのはそのためだ。



 ルシアは、おじいさんとおばあさんの家に遊びに来るのが好きだ。

 小さな時は母か父と一緒に。一人で来られるようになってからは毎週必ず顔を見せ、時に泊まって行くのが習慣になった。



 そんな孫娘に贈り物をするのが、エルノと夫の楽しみだ。

 エルノが得意な料理のレシピを教えることや、おじいさんが絵を描くところを見せるのもルシアには立派な贈り物だったのだが、夫妻にとっては、それはそれ。

 包み紙や箱の蓋を取った時の、驚いたり喜んだりする孫娘の顔を見たかったのだ。



 祖父母が大切にしていたのが、ルシアの誕生日と、クリスマスだった。

 どちらかを交互に担当し、何を贈るかは、ルシアに手渡す日まで互いにも内緒にするのが決まりだった。



 クシロが、まぶしそうに細めていた目を、窓からエルノに向けた。



「今年の誕生日の贈り物が。この、すてきな箱だったんですね」



「そう。ルシアは、とっても喜んだわ。家で独り占めは、もったいないから、この窓辺に飾ってと言って……」



 クッキーの箱に収まったままの贈り物を、エルノが、そっとなでる。



「天使のクシロさん、お願い。おじいさんに逢えなくなってしまった、あの子の悲しみを……救ってあげてはくれませんか?」



 それは、とても難しい願いだ。

 悲しみを救う方法なんて、クシロは知らない。知っていたとしても、人と悲しみの数だけ方法がありそうだ。


 クシロは思った。

 この願いはそれこそ、本物の天使でなくては叶えられないのではないか?

 エルノが天使を信じているからこそ、本当のことを言わなくては。



 クシロは、自分は、天使ではない。


 願いを叶える力などない、ただの『星の使い』だと、正直に告白した。








 

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