運命。


きっかけは、小学校の頃の友人との食事。

焼肉屋さんの予約の関係上、人数合わせで誘った1人が京八だった。


複数人での食事だったにも関わらず、私と京八の会話は盛り上がった―――というか、聞き上手の私と、話上手の京八の相性がマッチした。


「んじゃ、ウチら帰るけど……」

「あ、京八はこの後空いてる?空いてるならカラオケいこうよ」

「行くか」

「やば〜急接近じゃん!!じゃあまたね〜〜」


焼肉をたんまり食べたあとの私たちは、幸福感を抱えながらカラオケへと入っていた。

京八と私の2人きり―――そんなことは気にしていなかった。

男友達、女友達。久々に会って、話があって、テンションが上がって……そう、自分に言い聞かせていた。

自分に言い聞かせていないと、あの頃初めて出会った時の、恋に落ちる感覚を思い出してしまいそうだった。


「君とのラブストーリー……♪」


真剣な顔をして歌う彼の顔を見ていると、また、落ちそうになる。

美しい顔立ちに思い出すのは広い海。海…。


「ね、小学校母校行きたくない?」

「コロナ禍だから厳しいんじゃない?」


ああ、たしかに。

ウィズとかアフターとか色々言いながらも進まない日々、感染感染感染、緊急事態宣言……そんな言葉ばかり街に溢れていた。

―――それはきっと、これを読んでいる人も体験しただろう。


カラオケは、1時間に1回5分間扉を開けられる。

換気のため……らしい。

その度に私たちは曲を止めて、何も気にせずに会話した。彼女いるの、とか、いないよ、とか、いたの?とか、1度もいない、とか。


ああ、京八がこの年齢17まで彼女なしで生きてきた間、私は沢山の経験をしてきてしまったんだ、と、ただ切なくなった。

そんな気持ちは、まるであの海を見ていた時の感情を彷彿とさせる。

どこか彼方へ連れて行かれそうな、そんな悲しさと切なさ。そして美しすぎる横顔に、何度も見とれそうになる。


好きに―――なりたくないのに、なってしまいそう。


そう思った時にはもう、恋しちゃってるもの。


自分に嘘をつきながらカラオケから出ると、強い風が吹き荒れて、震えてしまう。

1月末の夜は、あまりにも寒すぎる。

痛いくらいに吹く風で現実に戻され、頭を抱えたくなった。好きになってはいけない。

――人を簡単に好きになってしまうから、なんとも失敗するんだ。

そう心に言い聞かせていれば、月日は流れ、バレンタインがやってくる。


義理チョコの中に、本気で作ったチョコを紛れさせ、保冷バッグに突っ込んで学校へ向かった。部活終わり、暗い夜道の住宅街をすすむ。保冷バッグの中に残ったチョコは、一つだけ。あなたの分だけだった。


スカートをもう1回折った。

前髪を鏡でチェックして、京八に「家の前についた」とLINEをする。

すぐガチャ、とドアが開き、美しい顔。

ああ、好き………なんて、もう認めてしまうほど、見とれてしまう。


「バレンタインだから、チョコあげようかと思って」

「ほんとに貰っていいの?」

「あー……こ、これ、義理チョコだから」

「うん、でも嬉しいよ」


ふいの「嬉しいよ」に胸に矢が刺さった気分だった。たまらなくたまらなく、好きだと思って。なのに、「じゃ、それだけだから」なんて言って私は京八の前を立ち去った。


―――告白されたのは、その1ヶ月後だった。







なんて、4年前の出来事を書いていると、懐かしさで震えてしまう。

首を縦に振った日から、今日まで、腐るほど喧嘩した。何度も別れそうになり、実際に別れていた期間もあった。それでも全てを乗り越え、今私の指には指輪がハマっている。

幼すぎた一目惚れが、6年の時を経て叶う。

そんな奇跡を、運命と呼ばずして、なんと呼ぶのだろう?


そしてきっとこの運命は、必然じゃなく偶然なんだと思う。


花火も、ビデオショップも、未だに一つ一つ思い出として残っている。

でも、未練ではない。

楽しかった思い出として昇華し、そして今、指輪を飾った2人が手を繋いで歩く。

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