運命⑥


現在いま考えても、春太は運命の人だった思う。出会わなきゃいけない存在だった。


春太は幸せな家族を持って、明るく笑う、けど少し人見知りな男の子。まるで陽の光のような笑顔。


2人で最後に行ったカフェ。

カップに少しだけ残った私の嫌いな紅茶。

勿体ない、そんな感情は浮かばなかった。


ただ、『私が飲んでいた飲み物がどれくらい残ってるか』、『私が嫌いな飲み物じゃないか』――なんてどうでもいいほど、春太は私を見れていないんだな、と深く深く感じた。


深く、深く感じた孤独感はいっそう、私を苦しめた。


そうして別れた後の私は、ぼんやりと空を見つめることが増えた。


春太の後に付き合った人は、ホラー映画が大好きだった。2人でよくレンタルビデオ屋さんへ足を運んだ。「何泊借りる?」そのセリフが大好きだった。


それでも、ここに書く必要は無いほど浅い愛だった。

電話越しに聞こえた最後の言葉は、

「なんで嫌いなのか、聞くのもダメなの?」

だった。

「…お前の全部が嫌いだよ」

そう言って、逃げるように電話を切った。

それだけが記憶に残っている。


それ以降は、恋愛から離れることにした。

高校2年生は恋人を作らず、好きな人は作れず、ただ楽しく日々を過ごしていた。

花火大会の日が近づけば、春太のことを思い出すくらいで、春太への未練も1ミリもなかった。


ただ、処女への未練があった。


幼くして行為に及んだことを後悔し、それがコンプレックスへと化けていった。

17歳なのに処女じゃない自分を、自分が愛せなかった。こんな私を愛してくれる人もいないと思って、布団を頭まで被る日々だった。


それでも季節は巡る。

ぼんやりと生きていても、時間は過ぎる。

恋愛から距離を置いて好きな人が居なくなってから、世界が大きく見えるようになった。


例えば、元彼と行った場所。

元彼に集中しててよく見れていなかった場所が見えるようになった。


散歩道に生えてる花も、近所の犬も、青空も、雨の匂いも、何もかも美しく見えるようになった。


自分に恋愛なんて必要ない。


そう、思っていたはずなのに。


「あー……こ、これ、義理チョコだから」


義理チョコと言って、京八にチョコを渡したのが第二の運命の始まりだった。



『運命の人は二人いる』


現在いまの私は、納得してしまう。

1人目は別れる、なんてすごく残酷だけれど、私にとっての1人目の運命の人は、春太だったと心から思えるし、結ばれる運命の人は風谷京八だった。

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