運命 ④

水希は本当に運命の人だと思った。

この先もずっと、結ばれたいと心から思っていた。


夏には、2人で公園デートをした。

案外混んでてなんだか恥ずかしくて、バスで少し離れた街に降りた。よく知らない道だったけど、綺麗な緑道だった。

蒸し暑くて、「あつい」と嘆く私に、コンビニで買ってきたパピコを半分こしてくれる水希。

優しさが身に染みた。このパピコすらこのまま保存しておきたい。溶けないで、溶けないで。


秋には、イオンで映画を見た。

フードコートでたこ焼きを食べたあと、少し恥ずかしげに雑貨屋さんを覗いた。

しずく型のキーホルダー、2人のを合わせるとハートになるやつ。私は嬉しくて、嬉しくて、スマホに付けた。


冬には、私がインフルエンザで出席停止になった。その後にいつも彼と待ち合わせする道へ行くと、水希は笑顔で「おかえり」と言ってくれた。照れくさく、「ただいま」と言った。


手も繋がない、キスもしない。

性欲も存在しない。

ただ、本当に本当に純粋な恋愛がそこにあった。


1年付き合って、中学入学前の3月。


「中学で、いい人見つけてね」


最後の言葉だった。


一緒にいたいという夢砕けて消えて、恋心だけが残ったまま中学に進んだ。


水希は、運命の人じゃなかった。





14歳、中学2年生。


「さくらって好きな人いないの〜?」

「……いるっちゃいるけどね。3年くらい」


訳の分からない振られ方をした私は、別れた後も水希のことが忘れられなかった。

もはやなんで振られたのかもわからなかった。

小学生だし、多分飽きたんだと思う。別れる一ヶ月前に突然話す頻度も減って、優しくもなくなって、最後に謎の優しさだけ残した。


「中学でいい人見つけてね」


なんだよそれ。


なんなんだよ。


その後に水希を見た時、隣には水希と同い年の女子がいた。


なんなんだろう。


恋愛って、なんなんだよ。


あの日から、私はパピコが食べられなくなった。2人で買ったキーホルダーを手のひらに強く握る日が増えた。

私たちの愛の足跡は、このキーホルダーしかない。そう願えば願うほど、安物のキーホルダーは変色し、気がつけばスワロフスキーも取れていた。どんどん錆びていく。

錆びれば錆びるほどに、時間の経過を感じるのに、私の心は1ミリも癒されなかった。

距離感のバグった男からのアタック。

安易に揺らいだ私の心は、なかなか終わらないらしい。始まりはいつも簡単で、終わりは難しいんだと初めて知った。






「……おい、聞いてんの?」

「あ、ごめん……」

「風谷、何が好きだと思う?」

「あ〜、京八きょうや、抹茶味好きだったよね」

「じゃ、抹茶持ってけばいいか」


14歳の春、水希に捨てられた私は、中学でいい人なんて見つけられなかった。


代わりに、と言っても大したことではないが、

私立進学で学校が離れた京八きょうや――風谷かざたに京八きょうやと、学区で学校が離れた新田にった優輝ゆうきと過ごす時間が多くなった。


今日も優輝と共に、京八の家に遊びに行く。

男女の友情なんて存在しないなんて言うけれど、私は存在すると思ってた。


あんなに一目惚れした京八の顔も今ではドキドキしなくなり、見慣れてしまった。

それ以上に、内面のクールさと面白さが癖になる。友達として最高の人だ。


逆に優輝は内面は情熱的で、これまた面白い人。


私はどうかはわからないけれど、2人の前なら素でいられるし、気が楽だった。

京八と優輝と私、ずっと友人でいたい、とそう思った。そんな気持ちも、水希の時と同じように簡単に崩れた。


お互い、忙しくなって関わりが消えていった。

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