運命 ①


真っ白い肌に、鼻根から美しく伸びる高い鼻。

特徴的な泣きぼくろに、長いまつ毛。


「……」


目の前を通過していく美形に、呆気に取られる。



落ちてしまった。たまらなく落ちてしまった。

ああ、これが一目惚れなんだと、そう思わざるを得ない出会いだった。


運命の人がいるなら、神様、どうかこの人が運命の人であってください。

そうでないなら、この人と結ばれないのは不幸すぎます。


そんな小さな私の願いも、神様には届かなかった。


小学六年生の時に転入した学校で出会った運命の人―――風谷くん。


「風谷くん好きになったの?やめときなよ」

「だってさ、風谷ってめっちゃ人気じゃん。」

「そう…なんだ」


運命的な出会いだったけれども、手に届かないような人間だった。きっと彼は後に芸能界に行くだろうし、私なんかとは釣り合わない。そう思うほど綺麗で儚い彼。

とにかく諦めるしかなかったけれど、諦めなきゃと思っても彼を前にすれば全てが崩れてしまう。


海の前の小学校、総合の時間には海辺に遊びにもいけた。

みんなが靴を濡らし叫び、シーグラスを見つけ、はしゃいでいたその間も、彼はテトラポットの上で水平線を見つめていた。

黄昏れる彼は浮世離れしていて、海になりたいと願うほどの美しさだった。


彼と話すことはほとんどなかった。

誰にでも冷たく接する彼の行動や言動に一喜一憂したくなくて、傷つきたくなくて、私も彼を見ないようにした。

その間も下級生たちは、彼がゴールキーパーをしているだけでカッコイイと悲鳴をあげ、わたしはつまらない顔して鉄棒に座っていた。


ああ、なんでこんなにカッコイイんだろうな。性格さえ良ければ、振り向いてくれれば、神様が本当にいれば―――。


この先の人生でこの人と結ばれる人って、どれだけ綺麗な女性なんだろう?

きっととても優しくて芯があって、見た目も綺麗で、誰も勝てないような女性なんだろうなぁ。

そしてそんな女性に、あの美しい顔で笑いかけるんだろうな。


くるしい。ただ、くるしい。

おかしいことは理解しながらも、付き合ってもないのに未来の相手に激しく嫉妬する。

そして、自分の不甲斐なさや、彼を振り向かせられない苦しさに震える。


震えるほど、大好きだった。



今日も私は鉄棒の上に座る。

ゴールキーパーをする彼を見る。

休み時間が終わるまで、ぼーっと過ごす。

そんな毎日のはずだった。


「ねぇ、さくらさん」

「……?」


尖った八重歯と鋭いつり目からは想像のできない優しい表情と優しい声。


「あ、僕、5年の水希です。上の名前は、田原」

「…えっと、ごめん、鉄棒邪魔だったかな?」

「ううん違うの、さくらさんいつもここで過ごしてるでしょ?なんか今日は寂しそうだったから、話しかけてみたくなって」

「あ……ここに座ってるの、もしかして目立ってる?」

「ううん、僕が勝手にさくらさんの事見てるだけ」

「……そう、なんだ」


チラッと顔を見る。笑顔のまま、鉄棒によいしょと言いながら座り出す水希くん。


「いい眺めだな、ここ」


この学校は田舎の小さな学校で、全校生徒で交流があった。休み時間には、男子はほぼ全員サッカーをする。

またキックされたボールを取る彼を見て、ドキンとしてしまう。


「さくらさんって好きな漫画とかないの?」

「あー……暗殺教室なら途中まで読んでたんだけど、引っ越してくる時に置いてきちゃった。」

「え!!!じゃあさ、今度貸すから読む!?」

「え、読んでるの?」

「うん、俺ん家全部もってる!新しいのも買うつもりだよ!」

「あー、じゃあ、借りちゃおうかな……」


思わず俯いてしまう。


―――この人、苦手だ。


にこにことして、距離感が近い。

ぶっ壊れてるというか、誰にでも優しいタイプなんだろうけど…苦手。


私みたいな人間は、静かに穴の中に暮らしていたいくらいだ。


「おい水希ー!サッカー入れよ!!」


色黒の男の子が水希くんを遠くから呼ぶ。

まぁ、友達が多いタイプそうだよな……とか思いながら、ボケーッとサッカーしてる人々を見つめる。


「はーーい!!!じゃあ、また今度ね!」

「頑張ってね」

「さんきゅ!」


……嵐のような子だと思った。


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