夢のはなし ③

今朝の事だった。


金曜日の朝で、いつもより少し早く起きた。

ちょっとだけ時間があったから、とりあえずソファに座って、テレビをつけた。

学生時代は毎朝、見なくてもテレビをつけていた。

右上に映る時間を見ながら準備をしていたし、好きなアイドルが出てくると、うわぁって叫んで画面に釘付けになってた。


時間なんて、時計を見た方がいい。

アイドルなんて、どうせ嘘ばかりで、現実的じゃない。

非現実的な夢に過ぎないんだ。


そんなことを思いながらテレビをつけたら、黒宮が映ってたんだ。






「……夢の話って、面白くないですか?」


社員食堂、美味しいとは言えないカレーを、後輩と話しながら食べ進める。


「え?」


「ほら。先輩たちがあそこで夢の話してるじゃないですか。」


「……そう?」


「だって、存在しない話で盛り上がれるんですよ」


「存在しないんだから、意味ないんじゃないの?」


「えー、剣崎さんつまんないですね」


「なにそれー……」


「存在しないから、好きなこと言い放題だし、現実的じゃないことを脳で感じられるから面白くないですか?」


「……」


そういう捉え方もあるんだ、なんて思って、黙り込んでしまう。


「剣崎さん、現実見すぎですよ」


「……バレてる?」


「バレっバレです、現実見すぎて足元見えなくなってません?」


「足元……?」


「そう、自分が何を望んで生きてきたのかー、とか。」


「……確かに」


「なんかないんですか?そういう、現実的じゃないような話」


「あー……じゃあ、しちゃおうかな」


「どうぞ」


「昔、黒宮……って友達がいてさ。」




朝、黒宮がテレビに出てた。

私がずっと引きずってた黒宮は、変わってた。

死んだ目をしながら、現実的なことを言ってくれる黒宮は、非現実的な世界で生きる私には刺激的だった。

そんな死んだ目は、夢で溢れた目に変わっていた。


『高校の時にセカイに出会いました。友人がいなくなってしまって絶望的な中、非現実を現実にしてくれる彼女を、世界に広めなきゃって思ったんです』


Re:PALとかいう……かつてのアイドルグループ名を冠しながら、メンバーはたった1人、「セカイ」の偽物しかいないアイドルグループ。

セカイの振りをした偽物は何者なんだろう、なんて思ってた。

そんな、偽物を本物にする作業にマネージャーとして加わっていた黒宮。


「何してんの……」


そんな言葉が漏れた。


黒宮はもっと、現実的で、私を現実に引き戻してくれて、綺麗で、賢くて、合理的で……。





その瞬間、ずっと抱いていた、黒宮への恋心の未練は、泡になって消えた。



「……てか、私剣崎さんの下の名前知らないんですけど」


「ああ……」


もっていた、いらない資料の裏面にペンで書いていく。


「星と……華と唯?ホシバナユイ?なんて読むんですか?これ」


「これで星華唯せかいってよむの。キラキラネームでしょ?だから剣崎の方が好きなんだ。」

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