夢のはなし ②

今朝の事だった。

何故か見た夢を覚えていた。

黒宮と私が笑いあってる夢だった。

アラームの音が脳に響くまま、忘れていた彼女のことを思い出していた。

5分経ったところで、我に返って、ベッドからでた。


「やば、遅刻する」




黒宮と笑いあって、なびいてきたカーテンが線引きをした。

カーテンが波のように引いた後、黒宮は笑ってなかった。




「……今日どうしたの?ずっと心がここにないみたいだよ」


形式上の婚約者は、ビールを片手に心配してくれる。


「……別に、なんもないかな」


暗転したテレビに反射する自分の顔を見て、悲しくなってしまう。


「……籍のことなんだけどさ、婚姻届、今週末出しに行かない?」


テレビの横に飾ってある大きなカレンダーに目をやる。


「あ、これ5月のカレンダー」


婚約者はそう言って、5月の紙をビリッと剥がす。


「週末って、どっち」


「土曜日とか……」


「……ごめん、ちょっと、もう少し時間貰っていい?」


罪悪感が強すぎて、見たくなくて、手で顔を覆う。

暖かい自分の手で暗闇に包まれる感覚は、なんだか落ち着いて……心地が良くて。


「いいよ、急いでないしね」


そう言ってビールを飲み切ろうとする彼を見ると、嘘つき、なんて言いたくなる。


別に結婚したくないわけじゃない。

親のお見合いで差し出された私と、この良い人。

お見合いは、恋愛ができる可能性を信じることとか、今は知らない付き合った人とゴールインできる可能性を信じることよりも、よっぽど現実的で合理的だった。


結婚したいわけでもないし、したくないわけでもない。

ただ、現実的には……結婚してる方が信頼があって、家族にも余計な心配されない。

この人も、悪い人じゃないし、私のことを大切にしてくれているとは思う。

とても、現実的で、夢なんて見てないような話。


なのに、どうしてこんなに現実味がないのだろう。


「……俺、明日早いから、帰るね。」


「うん、気をつけてね」


「ありがとう、バイバイ」


そう言って部屋を出ていく彼。

ソファから1ミリも動きたくないこの気持ち、彼に合鍵を渡していることにとても安心した。


真っ暗なテレビに反射する自分は、茶色っぽい地毛が黒く映って……。


「黒宮……」


夢を見たせいかもしれない。

けど、鮮明に、確実に、黒宮を思い出した。

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