第10集 記憶の欠片

夢のはなし ①

ある朝のこと。


ふと、思い出したの。

幼少期、眠れない夜に夢見ていたこと。


私はピンクのリボンをつけた少女戦士、

彼は紺色のタキシードを着たヒーロー。

ふわふわのスカートをまといながら、必死に戦う。

仲間には、黄色のリボンをつけた少女と、ワインレッド色のタキシードを着たヒーロー。

一人一人が、敵の悪魔にやられていく。

結局、私と彼だけが残って、そして彼もやられてしまう。

絶望の中、彼を抱きしめる。


そんな想像をしているうちに、深い眠りにつき、想像していたことは全て忘れてしまう。








「……夢の話って、面白くないよね」


「えっ?」


教室の右端、見た夢の話で盛り上がってる女子を脇目に、友人の黒宮は呟く。


「黒宮ってケッコー冷たいよね」


「……そうね、だってつまらないんだもの」


「なにが?」


「全てが。」


「全て…………」


「特に、夢だとか、存在しないものを話すことに意味があるのかって……考えてしまうの」


「……深いなぁ」


「非現実的な話は好きじゃない。現実に存在したとしても、アイドルとかそういう……」


「人に夢を与える仕事的な?」


「そう、ああいうのも嫌い」


「そうやって嫌い嫌い言うから友達いないんでしょ?」


「いるじゃない、剣崎が。」


「……確かに?」


黒宮はニヒルな笑みを浮かべるし、私は笑う。

私と黒宮の間に、教室のカーテンがなびいてきても、表情は変わらない。


中学三年、出席番号順の席で、真っ黒い髪の彼女と出会った。


「……変な髪型」


最初に言われた言葉は、そんな言葉だった。

その日は、たしか、流行りのハーフツインをしてたんだと思う。


「これ、今の流行」


「私からしたら変なのよ」


初対面でこんなことを言ってくる人なんて今までいなかったから、私は好奇心で黒宮の髪を掴んだ。


「なに?」


「ちょっと動かないで」


慣れた手つきで、髪を分けて、結んで、引っ張って……半ば無理やり黒宮の髪を私と同じ髪型にしてやった。


手持ちの鏡を黒宮の前に置いて、見せてみる。


「……ははっ、自分がやってみると意外といいものね」


「髪綺麗だから絶対似合うと思ったんだよね」


「そう……私、黒宮エレナ。よろしく」


「黒宮?いい苗字じゃん、私は剣崎」


「下の名前は?」


「……キラキラネームだけど。」


あんまり自分の名前が好きでは無い私は、その日机の上に出していた【進路調査票】の裏に漢字で書いた。


「……いいじゃん。剣崎って苗字の方が好きだけれど」


「じゃあ剣崎って呼んで?」


「いいわよ」


黒宮はとても現実主義で、非現実的なことや非科学的なことは嫌いだった。

対照的に、私はアイドルが大好きだったし、魔法少女も、オカルトも好きだった。


黒宮は周りから「鉄の女」だとか、「血が通ってない」、「話しかけられたら死ぬ」とか言われてた。

私は「うるさい」とか、「誰とでも仲良くできる」とか、「クラスを明るくしてくれる存在」なんて言われてた。


そんな私と黒宮は、クラスの人々からは珍しい絡みだなんて思われちゃったりもして。


好奇心で「なんで仲良くしてあげてるの?」なんて聞きに来る人もいた。

それを見る度に黒宮は睨みつけて、「じゃあアンタはなんであんなブサイクなやつと一緒にいるかしら?」なんて聞き返して、殴られてたこともあった……。

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