造花 ③

『伝説のアイドルだよ、1番人気はあのピンクのモモタロちゃん』


『え、変な名前』


店員たちがカウンターの中で話している。

ふとテレビモニターを見ると、PALが映っていた。


『あの中だと誰が一番好き?』


高いポニーテールが目立つ、声のでかい店員が嬉しそうに聞いている。


『んー……青色の子』


ブロンドの髪と綺麗すぎる顔立ちが目立つ店員は、恐らくセカイのことを指したのだろう。


「セカイが好きなんだ……」


『えー、セカイ!?見る目無さすぎ〜』


その言葉が聞こえた私と黒宮さんは、お互いを見つめ合う。


「お待たせしました……オムライスです」


さっきのブロンドの女性が運んでくる。


「あの、キッチンの会話……特にあの人の話、筒抜けなんで気をつけた方がいいですよ」


「大変申し訳ございません。」


キッチンをちらっと見る。

少しだけあたふたする、あの失礼な店員。


そんな顔するなら、ブロンドの店員に謝らせるんじゃなくて、自分が謝りにくればいいのに。








その日から、私と黒宮さんの2人で

とことんセカイのことを調べるようになった。


黒宮さんは「私をセカイにしてくれる」

わたしは「自分をセカイにする」


階段を1歩1歩踏みしめる。


目の前に見える広いステージ。


視界いっぱいに広がる、ペンライトの海。


「はじめましての方ははじめまして!!!」


キラキラのマイク、キラキラの衣装。


「はじめましてじゃない方は、また会えたね!」


眩しい照明、光る青髪。


「こんにちは!!」


広がる歓声と熱気。




薔薇の造花は、本物の薔薇にはなれないのだろうか。

はたして造花は、所詮代わり物でしかないのだろうか。


例えば、薔薇よりも美しく、華々しい薔薇の造花だったなら――それは、薔薇以上の薔薇なのではないのだろうか。


私は造花じゃない……本当のセカイになれた。


私をセカイにしてくれた黒宮さんと、

セカイとして私と付き合ってくれた、あの日カフェで出会った人。

セカイを重ねてみてくれたプロデューサー。


キャッチコピーは「過去から来たアイドル」



「Re:PALの……セカイです!!!」



青1色に輝くペンライトの海は、私の世界。


―――いや、私がセカイ。












「……Re:PALのセカイ、最近めっちゃ見ない?」


「それな〜」


「でもあれ、結局偽物だよね。」


「それ、本物からしたらすごい嫌じゃない?」


「まあでも……死人に口なし、だよね」

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