造花 ②


「……あなた、あの水色の髪…ウィッグだったわけ?」


古文の参考書の左端から顔を出してくる。


「そうですけど……」


「はぁ……」


綺麗な顔立ちは、顔中にシワというシワを寄せ集めて溜息をつく。


「あなた、セカイの青髪が地毛で黒髪がウィッグってこと……知らないわけ?」



胸を突き刺されたような痛みを感じる。

呼吸が止まる。

苦しいとか、苦しくないとか、それすらわからない。


ただ、読んでた本を閉じて、その場から走って逃げだした。






この言葉は、今後の人生一生消えることないと思う。


ただ、私が傘を買わずに雨ざらしで帰るほど、それほど、ショッキングな言葉だった。


……知らないわけ?


知らなかった自分が憎い。


セカイの全てを知り尽くしてる気でいた。

セカイになれた気でいた。


「あははっ」


反対側の道には、前の学校の友達が楽しそうに歩いている。


わたしは、セカイになるために友達を消した……なのに、なんでセカイになれないの。



「……風邪、引いちゃうんじゃない?」


雨が傘に強く当たる音がうるさくて、よく聞き取れない。


ただ、いま目の前で私に傘を指してくれている―――図書委員に言われた言葉が……

ナイフのように、心臓に刺さっている。










「こんな綺麗な黒髪なのに……ほんとにいいんだね?」


「はい!!」


私が地毛を青く染めたのは、次の日の事だった。


「……それにしても、セカイに似てますね」


「え!?」


嬉しすぎる言葉に胸が高鳴る。


「メイクとかもそうですけど……元の顔つきが、めちゃくちゃ似てますね〜」


「えへへ」







いい気分でそのまま カフェへ向かう。


「……ごめんなさい、待たせた?」


「いえ……地毛の色変えたの?」


「うん……」


「いいじゃない、似合ってる」


「え……」


「えって何よ」


困った顔二人と、2杯のメロンソーダ。

クリームはまだ溶けてない。


目の前にいるのは、あの図書委員。


「私、黒宮るな。あなたは?」


「私は……そ、園田 千海セカイ……」


「セカイ?」


「ほ、本当にこの名前なのっ」


「えぇ……セカイになりたいだけじゃなくて、セカイなわけ?」


「うん……」


「で……私は親の影響でPALのファン。特にセカイが大好き。だからこそ、セカイの真似事をしてるアナタが気に食わなかった。」


「わ、私は……」


私は……。

喉元まで出かかった言葉、飲み込みそうになる。


「……」


一旦息を大きく吸う。


「……い、いじめられてた時に…親戚から貰ったDVDが、PALの……セカイ詰めDVDだった。それで、辛い時に……」


「うん」


「セカイの、綺麗さと儚さと……それから、言葉が胸に刺さって、その瞬間からセカイになりたいって……」


「……儚さ」


「その時は、セカイがもう亡くなってるなんて思わなかったの。ただ、儚いなって……そう思った。それで調べたら、もういないんだって知って、なんというか……」


「言いたいことは分かる」


「……『何事もやってみなきゃ、わかんないじゃん?』って、セカイの言葉。それに後押しされて、セカイになろうと思った。」







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