第9集 真、偽
造花 ①
薔薇の造花は、本物の薔薇にはなれないのだろうか。
はたして造花は、所詮代わり物でしかないのだろうか。
例えば、薔薇よりも美しく、華々しい薔薇の造花だったなら――それは、薔薇以上の薔薇なのではないのだろうか。
私は、造花になることを選んだ。
そんな人生だ。
「……自分のさ、個性とかないの?」
通い始めた定時制高校、窓の外はもう真っ暗。
やっと馴染めてきたと思った時だった。
「個性?」
「それ、真似事……でしょう」
ツヤツヤでサラサラで、一際目立つ長い黒髪の女性が問いかけてくる。
制服のネクタイにはピンバッチ――委員会の証。
「……図書委員の方ですか」
「ええ。」
The・図書委員、って感じの風貌にしては、あまりにも綺麗すぎる顔立ち。
「……私、好きなんですよ、セカイ。」
―――セカイ。
「知らないでやってるんですが、その服装」
青髪のツインテールを強く指刺される。
こちらに向けられた人差し指は、まるで刃物のように感じ、思わず息を飲み込む。
「わ、私は……」
「セカイは、セカイしかいないんですよ」
無駄に整った顔と、無駄に綺麗な髪、そして地味な雰囲気、感じないオーラ。
「……いいな」
小声で呟いた。
……別に、本物になりたいだけなんだよな。
セカイのポスターが貼られまくった自室。
時間があれば、『セカイ研究ノート』を見る。
鏡を見ながら、蒸れて仕方ないこの安物の水色ウィッグを外す。
この瞬間こそが、自分をセカイにさせてくれる。
綺麗な黒髪と、地味だが端正な顔立ち。
青髪ウィッグを優しく梳かす。
セカイは、私の
私が生まれたのは、セカイが亡くなって数年後だったから、セカイのことを生で見たことは無い。
だからこそ余計、追いかけてしまう。
私は、セカイになりたい。
私がセカイになるんだ。
そう強く思い、思わず強く梳かしてしまう。
毛が束になって抜け落ち、床に拡がる。
「あーあー……」
明日は地毛確定じゃん。
なんだか、あの無駄に綺麗な図書委員が頭に浮かんだ。
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