今世でも愛する ①


「……はー、見つかんねえか」


探しています掲示版の書き込みを今日も確認する。


コメントには「ストーカーじみてる」「こういうの規制しろよ」なんて書いてある。


「……会いたいよ、カイリ」


カフェでひとり、彼女が好きだったメロンソーダのアイスが溶けていくのをじっと見ている。


前世の記憶を持ったまま生まれてしまった俺は、前世で愛していたセカイ……芹野カイリを見つけ出そうと躍起になっていた。


「あの人……一人で喋ってる」


隣の席からコソコソと聞こえて、思わずため息が出そうになる。


生まれ変わった17歳の冬、俺はもはや諦めかけていた。

そもそも、前世で……カイリを忘れるためだけに無意味な結婚をした俺に、カイリを愛する資格があるのか。

それに、実の娘だって放置して……


「ナツコ……」


「……え?」


「え?」


あ、やばい。独り言はもう言わないつもりだったのに、思わず口に出してしまった。


「あっ、す、すみません……呼ばれたのかと思って」


あたふたしている店員さんの顔を見て、謝ろうと思った瞬間だった。


「え、パパ?」


……パパ????


「……はい?」


「あっ、ゴメンなさい……自分の父にあまりにも似てたので。よくみたら高校生なのに……ゴメンなさい!!!」


何度も謝る女の子をじっと見る。


―――ああ、前世のもうひとつの心残りは、ちゃんと生きていたのか。


安堵を感じて「大丈夫です」とだけ言った。


実の娘を17年振りに見ても「大丈夫です」としかいえない浅はかな男だった。


実にくだらない自分に嫌気がさすと同時に、やはり自分にはセカイしかいないんだと気付かされる。


メロンソーダのアイスは溶けてしまった。

一口飲んでみるも、美味しくない。


……君が好きだったものが、思い出せない。


はぁ、と大きなため息をつくと、カウンターの金髪の女の子が嫌そうな顔をしてこちらを見ている。


なんだか申し訳なくなって、席を立つ。


「お会計を……」


そう言うと、店員が「ウミちゃん」と言って、金髪の店員に会計を頼む。

が、店員はちょっと暇そうで…お前、なんて言いたくなるが飲み込む。


「メロンソーダ、まだ残ってますけど……いいんですか?」


怪訝な顔をされる。


「……僕、あんま好きじゃなくって」


「勿体ないですね。せっかく作ったのに……660円です。」


「すみません」


飲まなかったメロンソーダに660円は高いな、なんて思いながらトレーに1000円を乗せる。


「次からはお好きなものをご注文ください」


怪訝な顔で置かれた340円。


「……あの人もったいな」


「変な人……」


後ろの席からボソボソ聞こえる。


大きな声で責めてきた金髪の店員にイラッとしつつ、そっと店を出る。


「うわ、あの子……」


「あんなおしゃれなカフェ行くんだ」


店を出て数歩、同級生に遭遇し色々言われる。


……前世と何も変わらない人生。


違うことは、救世主セカイが居ないこと、ただそれだけ。


いやまぁ……娘と妻を置いて、というか傷つけた俺に救いなんてないのはわかってる。


それでもどんな暗闇でも掴み取りたい、セカイは俺の全てだから。

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