第8集 さがしもの

来世でも愛してくれる? ①


「ウミちゃんさー、その髪、染めないの?」


5つ上のバイト先の先輩はいつもその質問をしてくる。


「何回目ですか……染めないですよ、地毛気に入ってるんで」


「えー、わたし金髪それなんか好きくなぁい」


「それじゃあ先輩の好みじゃないですか」


「そうだけど〜……」


高校二年生の春、お店の外の桜の木は綺麗に色づいてる。


「彼氏とか居ないの?」


「……いないですよ」


「好きな人は?」


「いないです」


「えー、なにそれつまんなくない?」


……私はほんとに先輩この人が苦手だ。


お店の中に置かれたテレビを見る振りをして無視する。

画面の中ではかわいい女の子たちが踊っている。


「……ウミちゃん可愛いから、あーゆーのなれるでしょ」


「何言ってるんですか……」


可愛い、それはもう耳が腐るほど聞いた。


「PALじゃんー、懐かしくない?」


お客さんたちがテレビに釘付けになって、キャッキャしてる。


「PAL……?」


小声で呟いて、注文されたオムライスを作る。


「PAL知らないの?」


「知らないです」


「伝説のアイドルだよ、1番人気はあのピンクのモモタロちゃん」


「え、変な名前」


「あの中だと誰が一番好き?」


「んー……青色の子」


「えー、セカイ!?見る目無さすぎ〜」


自分で聞いといてそれはないだろ、と口に出しそうになるが飲み込む。


「セカイは〜〜〜……」


この口うるさい先輩は、今大学3年生だか4年生だか……で、就活は諦めてるらしい。

なんかよくわかんないけど、ここ――カフェ おむらいちゅ――のアルバイトを続けるらしい。

そんな、将来有望ならぬ将来無望な先輩に、私はシフトが同じになる度にグチグチ色々言われるのである。


「ね、聞いてた?」


「全然聞いてなかったっす」


「はー?もー、ウミちゃん生意気」


「そうですね」


綺麗なオムライスが完成し、客席に目を向けると、先輩の語りが聞こえてしまってたのか…お客様の先輩への目が厳しいものになってる。


「セカイの悪口聞きたくないんだけど」


割と大きい声。


「なんなの店員あの人……セカイのことはもう誰も責めてないのに」


ふっ、と息を吐いてから、オムライスを両手に持って、気まずい空気の客席に運ぶ。


「お待たせしました……オムライスです」


「あの、キッチンの会話……特にあの人の話、筒抜けなんで気をつけた方がいいですよ」


「大変申し訳ございません。」


はー……私がテレビの画面なんかに視線移したから。


なぁんて思ってしまう。


「……ごめんっ」


「大丈夫なんで、もう変なこと言わないでください」


「……うん」


これで少しは静かになるかと思った。

……のは、気のせいだった。


「ウミちゃん好きな人作らないの?」


5分後にはまた始まった。

バイト終わりまではあと5時間。

めっちゃでかいため息が出そうになる。


「……ずっと探してる人がいるので、作らないです」


「探してる人?」


「はい」


「どんな人?」


「どんな……」


口にしようとすると、すごく難しい。

どう説明しようか……そう考えていたら


「うわ、焦げ焦げじゃん」


オムライスを焦がしてしまった。

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