一般人 ⑤
「パパ、何見てるの〜?」
「ん?パパが昔好きだったアイドルを見てるの」
今年5歳になる娘の将来の夢は「アイドル」。
妻に似て可愛い顔をしている娘なら、伝説のアイドルグループ『PAL』を越えられると確信していた。
「それ、PAL?」
妻に聞かれる。
「そう。」
「へぇ、パパってそういうの好きだったんだ」
「うん、高校の頃ね。」
「誰推しだったの?」
「セカイ」
「何色の子?」
「青の子だよ」
「ふぅん……」
画面の中のセカイは、18歳の夏で止まっている。
「ああ、青ってこの子か」
俺の記憶の中のセカイ……芹野さんは、16歳の冬で止まってるのに。
「いちばん地味だよね」
「……」
あの日、秋葉原で、地味だと言われていたセカイは―――18歳の夏に大ブレイクした。
元々音楽番組に出たり、CMに出たりしていたが、18の夏からはひっきりなしにバラエティ番組に出るようになった。
『え、わたしですかぁ?趣味は〜、アクアリウムですっ♡』
そう答えていたセカイを鮮明に覚えている。
芹野カイリは……そんなに明るい人間じゃなかった。
趣味はTwitterと2ちゃんねる閲覧。
『暇な時間があったら?え〜、ストレッチしてますっ』
暇な時間には嫌いな芸能人のアンチコメントを見る。
「……パパ?」
「ん?」
「なんでパパは、このアイドルが好きなの?」
「……なんでだろなぁ」
「PALってもう解散してるんだっけ」
妻が食卓にカレーを運びながら、そう問いかけてくる。
「うん」
セカイがいたアイドルグループ PALは、セカイの大ブレイクと同時にブレイクした。
セカイのブレイクは18歳の夏だったが、解散は20歳の冬だった。
きっかけは、セカイの脱退だった。
『脱退します。そして、結婚します。』
あの日、脱退会見と称して記者を集め、脱退と結婚を宣言したセカイは―――その日から、人気が地に落ちた。
かつての秋葉原はセカイの広告一色だった。
それがその日から、ガラッと変わってしまった。
『誰と結婚するんですか』
『俳優の道田ユウスケさんとです。』
『ファンへの言葉は?』
『今までありがとうございました。』
画面の前で、頭が真っ白になったのを今でも鮮明に覚えている。
「あー、セカイって、炎上した子でしょ」
「……うん、そだよ」
ダイニングテーブルの椅子に座る。
「私嫌いだったなぁ」
無心でカレーを食べる。
「……結局、死んじゃったんだもんね」
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