第7集 格差

一般人 ①


……いつも、居場所のない人生だった。


「あ、あの……」


「うわっ、えっ、なに?」


「これ……」


保健委員に提出しなければならないプリントを、キモイと顔に書かれているような一軍女子に差し出す。


「あー……」


だる、と言いたげな顔をして受け取ってくれる、


「これさ、期限昨日なんだよ」


「え……」


「困るんだよね、そーゆーの。怒られんの私だから」


「ごっ、ごめ」


「いいから、もうあっち行ってんない?そこ邪魔になってるよ」


慌てて後ろを見ると、自分が塞いでいる机と机の間を通りたがってる人がいた。


「あっ、あっ、ごめんなさっ」


そう言って立ち去ろうと急ぐと、誰かの机の横にかかっていた手提げの持ち手に足をかけてしまう。


転倒の瞬間、毎回世界が一瞬止まって見える。

あ…世界と言えば……セカイちゃん。

俺の大好きな、セカイちゃん。

この世界だけで唯一俺に微笑んでくれるアイドル。


迫り来る床を見ながら、脳内には鮮明に先週末のライブが流れる。


セカイ、そう呟きそうになって抑えて。


「大丈夫!?」


ドン、と頭を強く打った。


「誰か先生呼んで!!!」


薄れる景色の中、右足にかかった手提げ袋を見た。


――あ、切れてる、弁償しないと。この席も確か……一軍女子グループの方のだ。

うわー、やらかしたなぁ、また嫌われちゃうなぁ。

これ以上嫌われてどーすんだ、俺……。











「アンタ誰?」


その声で目が覚め、眩しさに慣れない目をせいっぱい開ける。


「……え…ここは……」


「………ここ、私がよく使うベッドなんだけど。」


辺りを見回す。間違いなく、高等部の保健室であることを確認する。


「…な、なんでか知らないですけど……ぼ、ぼくここに……」


「ああもう、何その話し方」


「ごっ、ごめんなさい」


そう言って勢いよく頭を下げると、ブチッとどこかが切れる感覚がした。


次第にあたたかい血が流れてくる。


「えっ、えっ、なに、ガチ病人!?」


「えっ、ぼっ、ぼくもわからないです」


「ま、まってて!!せんせ呼んでくるから……!」


そう言って、女の子は部屋を飛び出した。

とりあえず後頭部を抑えて、メガネを探す。

裸眼だと何も見えないから、あの女の子の顔も名前も覚えられない。


必死に探すも、出てこない。


……いや、俺みたいな陰キャなんて、どうせ。


そう思って、探すのをやめる。


後頭部を抑えてた手を離して、そして見てみる。


「あ……」


あまりの血の量に、驚いて俺はそのまま


倒れてしまった。

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