愛憎②

「え?なに?あの子に振られたの?」


「振られてねえって……」


「振られたも同然じゃん!!!!」


ゴトンッと勢いよくグラスを机に置く友人に、おい、と言いそうになるが飲み込む。


「……そうだな」


好きでもない、告白してもないのに、振られたも同然ってのも変な話じゃないか?…なぁんて、反論する権利すら俺にはない。


「誰にも興味無いから、女性関係もういらないんだよ……」


そう小声で呟くと、大きくため息をつかれる。


「おまえさ」と言いたげな顔をし、口を開いたものの、黙る。

その一連の流れを見ていると、俺はもう何も言わない方が良いんじゃないか?とすら思う。


「……辛いこと、あったわけ?」


「ああ」


「どんなことよ?」


「…話すと超長くなるけど」


「いいよ、酒飲んでんだからさ、沢山話そうや」


「……俺が小学生の頃から好きだった人がいたんだ。」




……その人は、俺の兄の彼女だった。


俺が愛していた兄を裏切って傷つけることになっても、それでもいいからと手を伸ばしてしまうほどの恋をした。


中三の秋、その人を見かけて、会話して、気持ちが昂ってハグをした。


そこから、全てが変わってしまった。

兄と彼女は別れていた。

彼女と俺は対照的に、急接近した。

高一の春、告白し、遂に付き合うことになった。

本当に大好きだったんだ。

大好きだから……


「大好き過ぎて、俺はつまんない男に成り下がった」


そう笑ってみる。


「……普通に、やべー女じゃん。」


酔いが冷めたような顔をしてる友人は、深いため息をついて、「しばらく女はやめよう」とだけ言った。


付き合えと言ったり、やめろと言ったり、忙しいやつだな……なんて思いつつ、帰る時間が来た。







「……大好きだったんだよなぁ」


そう呟いてみる。


言葉は目に見えない。

彼女の気持ちも見えなかった。


この、心に空いた穴は、あと何年塞がらないのだろうか。

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