第5集 対義

曖昧


アラームが鳴る前に、

眩しい朝日と雀の声で目が覚める。

「……さぶっ」


10月中旬の朝の気温は、少しだけ冷える。

…というか、多分窓を開けたまま寝たせいだと思う。


「寒いな……」


もう1回呟いて、体を起こしてみる。

何も纏っていない体、隣にあるのも何も纏っていない体。


ため息が出そうになるのを、無理矢理飲み込んで、勢いよく窓を閉めた。


「ん……」


「あ、ごめん、起こしちゃった?」


少し強く閉めすぎたかもしれない。


そう不安になるも、寝返りを打ちそのまま眠り続ける彼女。


なんだか心底安堵する。


時計を見ると朝の5時半。

どうりで薄暗いわけだ。


狭いワンルームの中に広がる、秋の朝の香り。


「朝の香り…………」


そうつぶやくと、


「私の香り?」


と声が聞こえ、焦って彼女を見る。


「……いつから起きてたの?」


「3秒前」


目が空いてんのか開いてないのかわかんない彼女を見て笑いそうになるが、後々怒られると思って我慢する。


「アサの匂い、するの?」


「アサヒの匂いじゃなくて、《《朝の》匂いね。》」


「じゃぁ、アメの匂いは?消えた?」


無邪気な笑顔に見せつつ、本音をチラッと見せる彼女。


「ああ、俺にはわかんないから、アサヒ確認しといて」


寒さなんてどうでも良くなって、思いっきり立ち上がって服を着る。


「もう帰るの?」


「うん、迷惑かけちゃうから家で寝る」


「えー、迷惑じゃないからここにいなよ」


「……」


パンツと下着を着て、ジーパンを手に取ったところで固まる。


「今日、休みなの?」


「んやー、午後から用事ある」


「じゃあ、お言葉に甘えて10時までは寝ていこうかな。」


「やったー」


心にも無さそうな「やったー」。

でも顔はニコニコとしている。


「寒いねー、今日冷え込むのかなー」


「まだ6時だからかもよ」


下着とパンツのまま布団に入る。

何も着ていない彼女の隣に、入る。

なんだか申し訳なくなる。


「寒いよね、なんか服取ってこよっか?」


「んじゃー、引き出しから二番目の、モコモコのルームウェア上下取って」


そう言われて再度布団から出る。

彼女が裸でも気にしないなんて、昔は考えられなかった。


「はいよ」


ピンクの可愛らしいモコモコを渡す。


「ありがと〜」


のそのそと布団から出てきて、下着を着ようとする。

なんだか見てはいけない気がして目を逸らして、その視線の先にある見慣れた香水ものに気がついた。


「……あれ、買ったの?」


自分がどんな顔をしてるかわからないから、香水の方に顔を向けたまま話す。


「いや?」


そう言って、鼻歌を歌い出す彼女。


……まあ、貰いもんだよな。

なんて言いたくなってしまうが、耐える。

耐えるしかないんだ、一緒にいるためには―――そう自分に言い聞かせても、言い聞かせても、胸の奥の何かがモヤモヤする。


「じゃあ、寝ようねー」


その声で振り返ると、彼女はとっくのとうに着替え終わっていた。


「うん」


付き合っていない――いや正確には、付き合っていた男女。そして、もう一度一緒に眠る。

これのどこが「正しい関係」なのだろうか。


「俺たちの関係ってさ、曖昧だよね」


思わず口に出てしまう。


「……え、何が?」


ガチでキョトンとした声が隣から聞こえて、ハハッ、と笑ってしまう。


「だって、この上なく明瞭だよ?」


えっ、と声が出てしまい、寒気がして、彼女に背を向けた。


「いいじゃん、それでも。」


そう笑う彼女の顔を、俺は見れなかった。


ただ俺は、彼女の愛を……一身に受けたいだけなんだ。

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