可能

俺は、彼女の言ってることが、全くと言っていいほど理解できない。


「ずっとって…言ってたじゃんって、言わないの?」


「言わないよ、人は変化していくものでしょ?」


「…………」


何か言いたげな顔をして口を開き、また閉じる彼女。


もう一度言う。


「俺はずっと好きだよ。」





俺は彼女の言うこと全てが理解できないわけではない。


深く考えすぎる彼女、あまり考えない俺

取り繕う彼女、取り繕わない俺。


そんな正反対な俺らだからこそ、理解できない瞬間が来る。


初めて迎えたその瞬間は、暑い夏の日の事だった。


気温は35度を超え、汗は止まらない。

手を繋ぐことすら、どこか苦痛に感じる程の猛暑。


アイスクリームを渡した瞬間、彼女は

「ずっと好き、今もこの先も」

そう言った。

―――濁った眼で。


ああ、どうして君は考えてることが表情に出てしまうのだろう。

ため息すらつきたくなる。


そんな嘘、つかなくたって、俺は君といられればそれでいい。

だって俺は、君のことがずっとすきだから。


そう言いたくなる気持ちを飲みこんで、俺が君に贈る言葉は

「俺はずっと好きだよ、今までも、今も、これからも。」


眼は輝き、そしてまた悲しげな顔を浮かべる。


―――本当なんだって、本当に。


そう言いたくなるのも、飲み込む。

彼女の考えていることはよくわかる。


だから俺は、この身をもって、可能だと言うことを証明する。


何十年かけて、おばあちゃんとおじいちゃんになっても。






そう心に決めたのは半年ほど前のこと。


そして今朝、

「なんでずっと好きでいられるの?」

そう、問われてしまった。


「なんでって……」


そう、口を開いて、閉じてしまう。

なんでと問われれば自分でもわからない。

ただ、俺は狂うほど、彼女のことを愛している。


なんとか捻り出した言葉は、「ずっと好きだから」だった。


「それは……」

そういい、口を閉じる彼女。

納得してないのは、その声色ですぐわかる。

論理的な返事じゃなく、納得がいかないのはよく理解できるんだ。

ただ―――伝えられない、伝わらない。


「私はずっと愛することはできない」


その言葉は少しだけ俺の胸に刺さり、そして溶けて消えた。

―――きっと彼女は自信がないだけなんだろう?

そう思えば、刺さった言葉のトゲすら、じんわりと暖かく感じる。


「そう、でも俺はずっと好き。そんな君がずっと好き」


息継ぎなく、真っ直ぐな言葉で伝える。

俺のスマホのマイクは、確実にこの思いを届けてくれているだろうか。


「……でも、私は本当に好きじゃないんだよ」


無理やり出したような声で話しているのは自覚しているのだろうか。


本当は寂しい癖に、なんて言いたくなるが、その細い声すらも愛おしく感じて、頭がおかしくなりそうなんだ。


「うん、わかってる、でも俺は好き」


この気持ちが届けばそれでいい。


「俺は何度生まれ変わっても君が大好き、この身をもって証明する」
















「結局、それから俺は……木っ端微塵って感じで振られて、1人になったんだ。」


「へぇ……だからおじさんの小説、あんな内容なんだ」


「うん、実体験を元にしてるからね」


「そっかぁ……文学賞はめでたいけどさ、でも―――なんか、可哀想だね。」


「可哀想じゃないよ。だってまだ俺は、彼女のことが好きなんだ。」



俺は、可能だと証明したいから。

本当に大好きだって、今もこの先もずっと、大好きだって、証明したいから。


目の前からいなくなってしまった君に、いつか「ずっと想い続けた男」の話が届きますように。

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