第4集 「ずっと」
不可能
「ずっと好き」
私が人生で1番吐いた嘘は、この言葉だと思う。
そんなこと、私にとっては不可能でしかないのに……。
言葉というものは、たとえ1ミリも思っていないことでも、それをまるでプレゼントのように贈ることができる。
少なくとも、私はそうして生きてきた。
「ずっと好きだよ」
「ずっと好きでいられると思う」
「ずっと好きだった」
「ずっと好きでした」
「ずっと好き」
私にとってこの言葉は、全て人に贈るプレゼントでしかなかった。
たとえ嘘でも人が喜ぶのであればそれは正解で、そして、それが所詮「贈り物」でしかないのは誰でも理解している事だと思っていた。
「俺はずっと好きだよ、今までも、今も、これからも。」
言われてから理解することもある。
ああ、もしこの言葉が本当ならば、なんて幸せだったんだろうなぁ―――なんて感じてしまうことある。
私は愚かな人間だから、他人からの贈り物には期待を添えてお返しを渡してしまうんだ。
「なんでずっと好きでいられるの?」
そう口に出てしまったのは、今朝のことだった。
「なんでって……」
しばらくの沈黙の後、スピーカーから聞こえる声。
「ずっと好きだから」
「それは………」
どういうこと、と言いたくなって飲み込む。
「私はずっと愛することはできない」
小さな声で呟いた、その音をスマホのマイクは一語一句正しく掴んで、彼の耳に運ぶ。
「そう、でも俺はずっと好き。そんな君がずっと好き」
私の不可能を躊躇なく、まるで可能でしかないような口振りで話す彼が、私は嫌いなんだ。
きっと彼も私と同じで、贈り物をプレゼントしているだけだろう。
そう、思いたくて仕方がない。
そうでなければとても恐ろしくて、怖くて、震えが止まらなくなってしまう。
「……でも、私は本当に好きじゃないんだよ」
「うん、わかってる、でも俺は好き」
神様がいるのなら、同じ人間を愛し続ける力をください。
そう強く何度も願うほど、私は、他人をずっと愛することができる人間ではなかった。
最初はそんな自分を愚かに感じたし、回数を重ねれば重ねるほど、始まりがある度に「冷めたくない」と自分に恐怖を感じるようになる。
そんな自分すらも嫌で、嫌で、嫌でも、私はずっと愛することなんかできない。
できないのをわかっていながら贈る
その嘘を信じていたのに、結局最後に「好きではなくなった」と伝えられてしまう人の気持ち。
私は、それを考えられない。
想像もできない―――したくない訳ではなくて、本当にできないんだ。
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