第6集 道のその先
毒婦
鈴木はな、25歳。
「今日も可愛いね〜!」
「そんな事ないですよ〜っ」
私ほど、見た目が完全無欠な人間などいないのではないか。
そう強く自負するほどの自信を持っている。
そう、私は主人公。
誰の人生においても、私は絶対に主人公なのだ。
「………」
葉が散って無惨にも裸になった、公園のイチョウ通り。
枝に何もついていないその姿は、見ているだけでなんだか寂しくなるようなもの。
「…主人公」
―――そう思って生きてる。つもりだ。そう思わないと、私は潰されてしまうから。
このイチョウ通りは、たくさんの思い出が詰まっている。
幼少期はここで祖母と遊んだし、小学生に上がる前には、お父さんと自転車の練習をした。
中学の時の通学にも使ってて、四季を感じられるこの通りが大好きだった。
高校生になると、自転車でここを思いっきり通り抜ける毎日だった。
いつしか、この公園への思い入れも薄くなって、四季なんて「男女が燃え上がるシーズン」
って認識になって、銀杏が臭いと息を止めるようになった。
自然になんて興味がなくなってしまった。
興味があるのは、馬鹿みたいに私を愛する男でもなく、家族を裏切って私を愛する男でもなく、私だけ、私の心の空洞だけになってしまって――――愚かだったな。
今も充分愚かだけれど。
はぁ、とひとつため息をついて、冷えきった鉄のベンチに座る。
心も体も、下半身から冷たくなっていく。
夜10時の公園は、誰もいない。
そんな寂しくて静かで孤独なこの公園が、私にはお似合いだと感じてしまう。
私はきっと、主人公にはなりきれてないんだ。そう感じざるを得ない。
「はな?」
その声でハッとする。
「翔太…………?」
「なにしてんの、こんなとこで」
「なにって……なんも。」
こんなとこで翔太と会うなんて、なんてツイてないんだろう。
「なんも?」
ハッ、と鼻で笑いながら蔑みの目をぶつけてくる翔太。
「なんも……ないよ。ただ、帰るのもなんだし風にあたって帰ろうかなって。」
「へぇ、こんな寒いのに?」
「うん」
「ハハッ、相変わらずヤベーな」
乾いた笑い、乾いた風。
冷たい風が頬に当たって、水分を奪っていく。その感覚はまるで、剣山でも当てられてるような、痛覚に近い。
「…翔太こそ、なんでこんな時間に―――いや、興味無いからいいや。」
こんな人間に興味なんて持ちたくないし、社交辞令でも話したくないところだ。
「目障りなら、帰るから。」
そう言うと、虫の居所が悪いような顔をして、チッ、と舌打ちをする翔太。
「目障り……って思ってんのはそっちだろ」
「思ってないよ、久しぶりだなって思ってる。」
「嘘つくなよ、あんな終わり方させたくせに」
あんな……終わり方。
「……私のせいじゃないよ」
「お前それはねえだろ」
鬼のような顔をして、私の腕を思いっきり掴む翔太。
私は……私はどんな顔をしているのだろう。
――なんて、私は本当に自分にしか興味がないんだ。
「お前のせいで……」
「人のせいにしないで。」
強めに腕をはらってみる。
「翔太が私の事を殺したいほど憎んでいても、私は憎まないし、憎まれていたとしても、私は考え方を変えないよ。」
チッ、ともう一度舌打ちをされて、私はごほんっと咳払いで誤魔化す。
「……じゃあ、帰るから。もう会わないといいね」
翔太の人生の中の主人公であったはずなのに、私はいつしか倒される魔王になっていたみたい。
翔太の顔を見ずに立ち上がり、そのまま足早に歩く。
まるであの日のようだな、と感じながら。
「私、マジで翔太のこと、オモチャとしてしか見てなかったみたい」
まぁ……私も悪いんだよね。
謝る気はないんだけどさ、これまでも、これから先も。
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