澄んだ愛

同性、同姓 ①


早速だけれど、私はレズビアンである――。


開幕、いきなりのカミングアウトだが、とにかく女性が好きな女性だ。


そして私には好きな人がいる。


鈴木さんと言う人だ。

下の名前は――知らない。


かくいう私も鈴木である。

鈴木ゆき、という、語呂が絶妙に良い名前をしている。


日本中に鈴木は溢れているが、まあとにかく、私は私と同姓で同性な、鈴木さんが好きなのである。






――秋風に揺れるイチョウの木が、夕焼けに反射してオレンジ色になり、眩しい日の事だった。


私は、イチョウ並木沿いのベンチに座ってぼーっとしながら、お菓子を食べていた。

何となくだ。本当に何となく。


家にいても特にやる事がなかったのもあるし、なんか、行かなきゃ行けない気がした。

だから、ここに来たものの、ちょっと肌寒い風が吹き始めて、夕焼けが眩しすぎて……。


「帰ろう」


そう呟いた瞬間だった。


目の前で通り過ぎていく、ビニール袋を持って歩く鈴木さんを見つけた。


思わずベンチにしっかり座り直したし、お菓子も口に思いっ切り放り込んだ。


話しかける?話しかけない?


まるで乙女ゲーのような選択肢が脳みそに浮かぶ。どんどん遠ざかっていく鈴木さん。

焦りが生まれて、行け、自分、なんて思うのに、足は思うようには動かない。


そうして、ベンチから立ち上がった瞬間。


鈴木さんの正面に男の子が立って……何か軽く話して、手を繋ぎ、歩き始めた。


――え?え?え?


中学生くらいの……男の子。

弟か?いやでも鈴木さんの弟って確か今高校三年生――じゃあ何??


とにかく、私は荷物をサッと持って、距離を取って着いていく。


すると、しばらくして、立ち止まった男の子の前に鈴木さんがしゃがみこみ、何かを話し始めた。


―何暗い顔してるの?


そんな感じの単語は聞こえた。


次の瞬間だった。


「好き」


男の子が、そうとだけ言って、鈴木さんを抱き締めた。


中学生くらいの男の子が。

大学生の女の子に。

思いっきり抱きついて…………。



私の中に浮かんだ言葉は


思わず走り出してしまう。


後先考えずに――走り出して、私は抱きしめられている鈴木さんの肩を叩いた。


「すっ……ずきさん、何してるの…こんな所で。」


私がそう言うと、男の子は咄嗟にパッと離れ、2歩ほど後ろに下がった。


「あれ……?ゆきちゃん?」


しゃがんだままの鈴木さんは、上目遣いでこっちを見ていて、なんとも―――可愛すぎる。


「さっきそこで、見かけてさ――ごめん、お取り込み中だった?」


ちょっと息を切らしながら、へへっと笑うことが虚しくてしかたない。


「んー……」


ちょっと目線をちらっと男の子の方に向けて、


「そんなに、お取り込み中じゃなかったかもぉ」


にへらぁ〜って効果音が合うような雰囲気で笑う彼女。


「そっか……」


会話を続けなきゃ……そんなふうに思いながら、男の子をちらっと見ると、ぺこりと会釈される。

だから、私も会釈しかえす。


「……カレシ?」


KYかもしれないけど、聞いてしまう。


「ううん、違うよ〜」


即答する鈴木さん、少し表情が暗くなる男の子。



――なんか私、修羅場、起こしちゃった?

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