彼氏の弟と私 ②


私が存在していないことに、誰も気づかない


「じゃあ、次行こっか」


私がチーズケーキを食べ終わった頃合を見計らって、立ち上がる優太。


「あ……うん」


カップに少しだけ残った、私の嫌いな紅茶。

勿体ない、そんな感情は浮かばなかった。


ただ、『私が飲んでいた飲み物がどれくらい残ってるか』、『私が嫌いな飲み物じゃないか』――なんてどうでもいいほど、この人は私を見れていないんだな、と深く深く感じた。


深く、深く感じた孤独感はいっそう、私を苦しめる。


誰も、私のことを知らない。

教えてないし、知らない。気づかない。

みんなが認識してる、って人物は、存在しない。

その、上辺のじゃなくて、

本当のと一緒に、罪を共有できた彼は―――だから私は、彼に興味を持ったし、心に穴が空いたのかもしれない。


「どうしたの?お腹痛い?」


気がついたら、お腹をさすっていた。


「あっ……いや、チーズケーキがちょっと重たくて」


違う。心が痛いから、さすってただけ。


「そっか…………ちょっと休む?」


優太が指した指の先には公園。

ピクニックしてる家族やカップルで賑わっていて、眩しすぎる。


「いや…大丈夫!そんなにしんどくはないから」


「そっか、辛くなったら言ってね?」


――優太は残酷なくらい優しい。

優しくて純粋で、眩しい。

私と全く違う存在。だから私は、私も陽の光に当たりたくて、付き合いたいと思った。


でも、所詮、影は影だし陽の光は陽の光。


陽の光が影に寄り添えば寄り添うほど影は消えていく。彼の隣にいる以上、影は消される存在。



だから私は、自らの欲望のままに動くしょーちゃんに、興味を持った。

完璧じゃない、陽の光ではない、そんな彼に。





ふわっと吹く秋風、少し肌寒い。


青く、暗く染っていく夕焼けを見て、


「私って、クズだなあ」


と、呟く。


あの瞬間、しょーちゃんに抱きしめられた瞬間、私の中に芽生えた感情は

ただ、それだけだった。


嬉しくもなかった。



きっと、もう二度と彼と会うことは無い。

もう二度と、しょーちゃんとは、会わない。

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