自己愛
彼氏の弟と私 ①
「性格の悪い女」と言われれば、返す言葉がない。
まあつまり、私は自他共に認める性格の悪い女だ――いや、他は認めていないかもしれない。
だって私は、それを表に出さないから。
「あっ、はなちゃん」
私のことを、まるで小動物のような目で見てくるこの子は、彼氏の弟――翔太くん。
「しょーちゃん!」
私がそういって手を振ると、しょーちゃんはすぐさま近づいてきて、その私の手をとって、握りしめる。
へへへ、なんて笑いながら。
隣に立つ彼氏の優太は毎回嫌な顔をする。
それをわかっていてやってるしょーちゃん。
わかっていて拒否しない私。
どっちも、他人から見たら「性格の悪い人間」だろう。私たちはおそらく、それを否定できない。
しょーちゃんは、悪い子だ。
「はーなーちゃん!」
優太が居ない時は、ハグまでしてくれちゃって。
「しょーちゃん可愛い〜っ!」
そう言って、頭を撫でると、まるで猫のように喜ぶ。
そんなしょーちゃんの姿を見ては、『兄弟揃って可愛いって言われるのが好きなのか』『それは遺伝なのか?』と、また極悪非道とも言えるような事を考えてしまう。
私より小さなこの
私の事を好きなのだろうか。
私の事を、お母さんみたいに甘えていい対象だと思ってるのだろうか――。
気になるけど、そんな事、小学生の男の子に聞けるわけが無い。
しょーちゃんは、私の事を何だと思ってるんだ?
そんな疑問を抱きながら、しょーちゃんと手を繋いだり、ハグする日々が続いた。
しかし、そんな日々も終わりが来た。
我慢の限界になった優太が、もうしょーちゃんと私を会わせないという事に決めてしまった。
悲しいことに、優太と優太のお母さんもそれに完全同意してしまっていた。
抗うことができなかった。
私は、興味のある
いや、自分でどれだけ性格の悪いことを言っているのかよく理解している。
しょーちゃんから向けられてるものが甘えだろうが、恋愛感情だろうが、私はしょーちゃんに対して思ってる事は、何も無い。
興味の対象なだけなんだ。
そう、自分に言い聞かせた。
けれども、私は心にぽっかり穴が空いたような気持ちを、完全に否定することはできなかった。
私にとって、優太は愛すべき人であるなら
翔太は、愛してはならない人。
「はな、最近いつも考え事してるね」
「え?」
「何かあった?」
「いや……なにも」
あなたの弟のことを考えているなんて、言えたもんじゃないから…………。
そう思いながら口に運ぶ、大好物のチーズケーキは、あまり美味しくなかった。
「美味しくない?」
「いや?美味しいよ!」
「よかった〜」
「ふふふ」
私の何が本当なのだろうか。
口からはいくらでも嘘が飛び出るし
笑顔も、いくらでも作れる。
それに誰も気づかない。
私が存在していないことに、誰も気づかない。
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