第3集 愚者の道
歪んだ愛
兄の彼女 ①
神様がいたら、どうしても聞きたい事がある。
なぜ兄弟というのは、似ているのだろうか。
それは時に優しく、時に残酷である。
「しょーちゃん、おいで!」
無邪気な笑顔で、手を差し伸べてくる彼女。
今だけは、いいよね?
チラっと兄の顔を見て、俺は彼女の手を取った。
彼女は――はなちゃんは、兄の彼女。
兄の優太は、はなちゃんと付き合ってもう1年も経つ。
はなちゃんの笑顔は、太陽のように明るくて、また、色気もある。
中1の俺には、眩しく刺激的すぎる。
始まりは優太が中3、俺が小5の時だった。
「俺、彼女できたんだよね」
「え??」
マジで冗談だと思った。
でも、いつも家でふざけてる優太が、いつにも増して真剣な顔をしていたのが、そうではないことを物語っていた。
「いつか会わせてよ」
そうとだけ、言った。
本気で会うつもりなんてなかったんだけど、
彼女も俺も、同じゲームをしていたもんで、
優太も含めて3人で通話しながらゲームしたりしてるうちに、段々と会いたくなってきた。
その優しさに触れてしまって、心の中に湧いた感情の正体を知りたくもあった。
そうして俺は、悪魔になった。
「翔太、あんまりはなちゃんとくっつきすぎちゃダメよ?」
優太が母に言うように指図したのだろうか。
少し心配した顔をしてそう言う母。
反論の余地がないほど至って真っ当な意見だし、そもそも俺が間違ってるのはわかってる。
ただ、
「わかってるよ〜」
俺はそれはやめられない。
軽く流して、反省もせず、またはなちゃんの目の前に立ったら、俺は懲りずに言うだろう。
「はなちゃん、可愛い」
その言葉で照れてくれる事が嬉しい。
例え君の心が優太に向いていても、君が優太のものだとしても、俺を感じてくれている事が嬉しくて嬉しくてたまらない。
「はなちゃん」
そう言うと、ふわふわした髪を靡かせながら、振り向いてくれて
「どーしたの、しょーちゃん?」
なんて言って、太陽のような笑顔でへらっと笑うはなちゃんが愛おしい。
「へへ、なんでもない」
そう言いながら、少し駆けだして彼女の横に立ち、彼女の手を軽くとって、握りしめる。
味わうように、一歩一歩、一瞬一瞬を、大切にするように。
「翔太、こっち来て」
はなちゃんのぬくもりを知れば知るほど、また繋ぎたくなる。
それを邪魔するのは、やっぱり、優太だった。
「あんまりはなにくっつかないで」
初めて、優太のそんな顔を見た。
でも俺は、俺は――――。
結局、はなちゃんを選んだ俺は、母からも優太からもはなちゃんに会わないように根回しされ、1年近く会えなかった。
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