雨音 ②

何故、嫌いか。

そんなの決まってる。


罵倒、自己中、毎回遅刻してくる、愛がない、愛がなかったから。


こいつは、愛という感情がなかったから。



「ねぇ……ねぇってば」


「なに」


なに、なんて言いながら、視線は手のひらの上を向いていた。

その手のスマホに写ってる画面は漫画。


はぁ、と一つため息をついて、傍を離れる。


離れても、何も言われない。


「あ、チャーハン作って」


「え?」


「だから、お腹すいたからチャーハン作って」


「いや、ごめん、具材ない。」


作りたくないから嘘をつく。

奴の顔は、はぁ?と言わんばかりの顔をしていた。


「今から友達と遊んでくるわ」


「え、今から?」


「うん、腹減ったし」


そう言って、そそくさと帰る準備をする姿を

私はどんな目で見ていたのだろうか。


「じゃあ、私も今から砂原達と遊んでこようかな」


そう、呟いて着ようとした服を手に取った瞬間。


バシン、という音と共に背中に響く衝撃。

瞬間、体に走る痛み。


「え……」


「砂原たちとは遊ばないでって、言ってんじゃん」


その顔は、鬼のように感じた。


「そっちが砂原たちの事嫌いだからって、別に私には関係ないじゃん」


「あるよ。彼氏だもん。」


こういう時だけ彼氏面すんのよな。


「私は、砂原たちと遊びに行く。」


「絶対にダメ。許可しない。」


「じゃあ私も栗野さんの事嫌いだから、遊ばないでくれる??」


栗野――コイツの大親友。

砂原たちは私の大親友たちだし、同じカードを持ったはずだったのに。


「嫌いとか、最低だな」


そういうって、コイツは私の家を大きな足音を立てて、無言で出ていった。


瞬間、涙が止まらなくなる。


ブーッ、ブーッ。

砂原からの着信で、携帯が震える。



「もしもし…」


「え?泣いてんの?」


1発でバレる。


「…アイツ帰ったから、今からそっち行くね」


「おう…」



私は、それでもコイツのことが好きだった。

親友の砂原たちを差し置いてでも、コイツを優先するほどに愛していた。


初めての告白もコイツだったし、コイツのためならなんでもした。

本当に本当なんでもした。

コイツのためなら、って、お金も貸した。

本当になんでもした。


――私はダメな女だった。





「なんで嫌いなのか、聞くのもダメなの?」


その声でハッとする。

人が2人ほど、セルフレジの列に並び始めてることに気づき、私は急いでお金を投入し会計をすませる。


「…お前の全部が嫌いだよ」


そう、言ってやった。

スッキリした。

でも、何故か、コイツの顔を見れなかった。




本当は大好きだった。

このままじゃ自分がダメになるって、泣きながら振ったあの日の夜から3ヶ月間、ずっとコイツの事を考えていた。

4ヶ月目、私はコイツの事を忘れることにした。

現実の楽しいことに専念した。

そうしていたら、コイツのことなんて忘れられた。


で、今コレ。



コイツは、今どんな顔をしているのだろうか。


「俺は今でも、好きだよ」


背後からする、切なげな声。

じゃあ、なんであんなことしたんだよ。

そう言いたい気持ちをぐっと飲み込んで、

聞こえないふりをして、私は店を出た。


扉を開けた瞬間に襲いかかる湿気と蒸し暑さ。


あれ程強かった豪雨が、更に力を増しているようにも感じた。




「さよなら」


後ろにいるかいないか、わからない。

けれど、アイツにそう言うように呟いて

傘をさした。

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