第2集 罪と罰

憎悪

雨音 ①


それは、雨の日の事だった。

行きつけのレンタルショップの前。


正面に、見慣れた背丈、見慣れた顔、

見慣れた制服。


――目が遭う。


「あっ。」



思わず声が漏れてしまうも、豪雨の雨音で掻き消される。



もしかしたら、相手もなにか言ったのかもしれない。


それは、マスクと雨音でそっと掻き消される。

私の声と同じく、掻き消される。


目が遭って、数秒。


先に口を開いたのは、相手だった。


「久しぶり」


「なんでいるの」


対照的に、食い気味に質問してしまったのは私だった。


「なんでって…ここに用があったから。」


「あー……」


――思い返せばココ、こいつの行きつけでもあったな…。


「はあ。」


ため息をついて、相手の前を通り店内へ入る。


「いらっしゃいませーっ!」


甲高い声の妙に元気な店員が、今日は不思議と腹立たしく感じてくる。


私がこの店に来た理由は、ホラー映画を借りる為。


さっさと借りて帰ろう、と思い、ホラー映画コーナーに着いた瞬間だった。


「何借りんの?」


背後から、嫌という程聞き慣れた声。


「…コレ。」


2人で見るだった映画を、わざと指差す。


「あー…それ、面白くないよ」



――お前のそういう所が嫌いなんだよ。


思わず口に出そうだったが、ぐっと堪えて。


「そーなんだーじゃあー帰ろっかなー」


なんて言いながらさりげなくお目当ての映画を取って、セルフレジに向かおうと後ろに振り返り歩き出すと、強く腕を掴まれ、


「それ、俺も借りたかったんだけど」


あの頃みたいな、意地悪げな……わざとらしい表情を浮かべているのが、余計ムカつく。


「あ、じゃあ借りれば?私別にいいから。」


「よかったら一緒に見ない?」


右腕は強く握られたまま。


左腕に持った映画。


「痛いから離してもらってもいいかな。」


そういうと、パッと腕を離される。


「で、一緒に見ない?」


「どこで?」


食い気味に聞き返す。


「ユリの家は、どうかな。」


相変わらずで笑えてしまう。


「ウチは無理。出禁だから。」


「誰が?」


名前呼びたくなくて、遠回しに言ってんのに。

わざわざ聞き返してくるとことか、ホント腹立つな。


「アナタですよ。」


名前を呼びたくない。

呼ぶ事を私のプライドが絶対に許さない。


「なんで?」


「なんでって…考えりゃわかるでしょ。」


「じゃあウチは、どう?」


「無理かな、密室とか無理。」


「じゃあ見れないな…。」


「一緒に見る必要、無くない?」


睨みつけて、言ってみる。


「俺が一緒に見たいって言ったら?」


相変わらず、そういう言葉を言う時だけ声が小さくなる。


聞こえないふりして、セルフレジに向かう。


「いやちょっ、待ってよ」


「何?なんで待たなきゃいけないの?」


手早くバーコードリーダーの部分にバーコードを当て、精算開始を押す。


「なんでって、俺もそれ見たいんだって。」


レンタル期間選択画面。

腹が立って、


「1泊にするから良いでしょ」


なんて言って、1泊のボタンを押そうと…するが、私の体がそれを拒否する。



いや、1泊にしろ。じゃないとコイツ、絶対しつこいって。

でも1泊なんて、現実的に…。

明日は土曜なのに、わざわざ学校の最寄りまでまた来なきゃ行けないの?

いやでも1泊じゃないと……。


「1泊じゃ、キツイんじゃないの。」


「…」


そっと、3泊を押す。


「一緒に見ない?」


「見ない」


「なんか理由あるの?」


「ある。」


「聞いてもいい?」


「嫌いだから。」


「誰が?」


「アナタだよ。」


「なんで嫌いなの?」


そこで、私の口はピタッと止まった。


なんで嫌いなのか。


そんな、初歩的なことを聞かれるとは、思ってもなかったから。

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