花火と嘘①

「…よっ。」


約束、5分遅れ。


どうせそんなこと考えてるんだろうな。


「よっ。」


その一言しか返ってこない事が、こいつが俺に無関心って事を示しているように感じた。


冷めきった関係、とは形容できない。

俺は、お互い無関心な関係だと名付けた。



「今日暑いね。」


絶対に思ってもなさそうなことを、気まずさ紛らわす為に言ってくるところが嫌い。


「そうかな。」


「そうだよ。」


対抗してくるかのごとく不満そうな顔で返してくるところが嫌い。


「涼しいよ。」


嫌いだから、俺も対抗する。


はぁ、とため息をつかれる。

まあきっと無意識なんだろうけど。



乾燥しやすいのにリップを塗ってこなかった俺の唇は、ガッサガサに渇いていて少し痛かった。


そんな俺を、まるで「なんでリップ塗るってこともできないんだろう。」とでも言いたげに見つめてくるんだ。


「…見ないでくれる?」


強めに言い放った言葉は、きっと心の奥底に刺さったのだろうか。

それとも、俺なんかに言われた事が悔しかったのだろうか。

悲しげな顔を浮かべていたように見えたが、知らないフリをした。

――いや、知らない。




くそみたいに見慣れた、5回目の花火大会。


3年目まで毎年変わってた浴衣は気がついたら変わらなくなってて。

3年目まで毎年髪型を変えていたのに、いつのまにか軽く結んだポニーテールだけで。


――3年目位から、待ち合わせして会った瞬間笑顔を浮べることが消えた。


『マンネリ』


そんな軽い言葉でまとめる事もできるけど、

俺には受けいれられない。


俺は1年目から4年目までずっと努力し続けた。

浴衣は毎年変えた。

髪型も変化を持たせるように努力してる。

胸毛と脇毛が嫌って言われて剃ったし。


そのくせしてお前は努力しなくなった。

髪型もメイクも服装も変わらないし、すね毛も腕毛も剃らなくなった。

それでも、待ち合わせして会った瞬間のあのとろけるような笑顔を見るだけで抱きしめたくなって。

たまらなく好きだったんだ。


月日が経つ事に笑顔の回数と会話が減り、今に至る。

俺は呆れ、お前は自覚もなく落ち込む。


まあ―もういい。

どうせ別れることはこいつも悟っているだろうし、なんなら今日が最後の花火大会になる事もわかってると思う。


わかってなきゃ、こんな嫌そうな顔は浮かべないだろう。



「ちょっとコンビニ寄らない?」


無言を先に裂いたのはあっちだった。


「勝手にしなよ」


冷めきった顔で言う俺と、あからさまにショックが顔に出るお前。


何も言わずに店内に入っていき、

5分もしないうちにあいつは戻ってきた。



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