第2話

「宜しいのですか?

世界の主が中心を動いて。」

「ん、まぁ..忙しい方だからね。

仕方ないんじゃないかな」

お人よしか人の頼みを断らない阿弥陀如来は大元にしては定まらない。常に誰かの顔を見ては赴いて助けに入る。


「お言葉ではありますが、親切のみでは時代についてはいけません。天部や他の者に任せては如何か!」

「..そうだよね、あの方は優しさっていうより〝易しさ〟だからね。」

「..もういいです、手続きをお願いできますか。」

「あ、そうだった。

こっち来て、すぐに済むから」

言われるがままについていくしかない所詮は未だ、駆け出しの如来だ。

「ふあっ!」

『キュルキュルキュルキュル..』

「圧されてる、いくら一人といえど天部だぞ。」

「神を超える獣って..酷いな。」

「..やめなさいよ、仏が云うとブレんのよ。...なんか」

菩薩が神を褒めている、刑事がお巡りさんに土下座しているような事だ。

『キュルキュル...!』

「来んぞ!」「厄介な相手だ。」

阿吽の棒は弾ける事が無い。

どれ程の衝撃を受けようと固く維持され武器としての威厳を保つ。しかしその威力は持ち手の身体に蓄積され、徐々に傷を負わせていく。

「仕方あるまい、情け故躊躇っていたが受けるがいい!」

完全に溶けきる前に、棒の先端を押し当てれば蓄積された衝撃は全て返却される。

「はぁっ!」

『キュルルルルルル..』「..何?」

返す事ができれば、の話だが。

「爪が突出して棒を持ってる」

「肌に当てなければ返却は出来ない」

『キュルキュルキュル..』

このまま腕を離せば反撃を受け、持ち続ければ蓄積を食う。

「万事休すか..」


「万事と言わずゆっくり休むといい」

「なっ!」「もしかしてあれが」

「阿弥陀如来..様?」

棒の上に足をかけ、吽形を見つめ労う薄着の光沢を持つ男。一目見て力を持つ者だと解る。

「如来様お離れ下さい!

其処は傷の集まる場所ですぞ!」


「案ずるな、軽傷だ。

運良く儂にとってはな」

棒に一本指を付け、蓄積を吸い出す。

傷は気泡の塊となり人差し指の先端に収束する。

「そら、返すぞ道化。」

弾いた気泡が黒い肌に馴染み炸裂する

「うっわ、スッゲ...」

「威力返しただけだよ。」

冷静の極み堕楽、実感の湧かない伝説に出会えばそんなものだ。

「如来様、お怪我は!」

「無い、寧ろ与えた。

阿形は癒しておいた、気にするな」

「阿形まで..申し訳御座いません!」

「言っているだろう、気にするなと」

偉ぶる素振りも無く世界を司る者には見えない。だが威厳はあるというおかしな存在、光沢がそうしているのか。

「ねぇ..亜異故菩薩って何なの?」

「お前っ、冷静かよ!」


「うん、奴等は仏を脅かすものだ。」

「説明してくれるんだね..」

「温厚な方なんだ。」

阿弥陀がいうに亜異故菩薩とは如来になりきれず絶望し門を出た者、邪心に満たされ呑まれた者の成れの果てという事らしい。

「みんなあんな見た目をしてるの?」

「モノによって異なるとは思うが、大概は黒い濁った色をしている筈だ」

「なぁ?

あいつなんであんな話せんの」

「知らない。」

「外の影響を受けるって事ね」

仏の門の外は何でもない不毛な道が続いており、埃の付いた狐や狼、そういった〝野良〟という言葉を表すような荒く不潔なモノが彷徨う無の境地である。

「動物達は魂の寄せ集めに過ぎない、憑けるものを探して漂っているのだ」

「へぇ、そうなの..」

知識として関心を持つ事もあるようだ


「お前たちは何で如来になりたい?」

「え..?」「いきなりなに。」

「お、オレは!

強くなりてぇから、目指してる!」

「正直だな。」

「簡単だね..」「安易なやつ。」

「思ってんだから仕方ねぇだろっ!」

「まぁいいだろう、それぞれだ。

..で、お前たちは?」

菩薩は如来を目指すものだが、言われてみると人の理由を聞くことは無い。

「私は、見てみたいものとやりたい事がある。言うつもりはないけど」

「かまうものか、聞かんよ。

して、そちらさんは?」


「僕は..別に、なれなくてもいい。」

「んう?」

「何言ってんだよお前!」「......」

「修行なんてしたい奴がすればいいと思うし、如来にだってなりたいと思う奴がなればいい。だからと言ってやりたい事がある訳では無いけど」

「ほう。」

いつも疑問に思っていた。

菩薩は皆、なるべき者になる。やらないといけないことがある。口を揃えてそう言うが、何故なのだろうと。

「みんな違うから尊重しろとか、そういう敬いのある言い方は出来ないけど一つに纏める事は無いと思う。」

「お前そんな事言ってるから落ちこぼれてんだぞ?」

「さっきだって理由は違かった。」

「は?」

「如来を目指す理由、単純な強さだったり目的の為だったり、不確かだから、決められなかったり..」

「……そうだな、確かに。」

遣り用は一つじゃないということだ。

真っ当に目指すのも良いし、休んで怠けてもいい。ワケを隠してうわべで生きても自由な世界、それが仏だ。


「..なんか言葉にすると薄っぺらいなでもまぁそういう事なんで、如来様」「む?」

「帰って貰えますか、今年如来決まりましたし。言える事無いので」

「ちょっお前、何言ってんだよっ⁉︎」

「しんどいもん、いいよもう。」

下手に落ち込めば黒ずんだ身体に変わり、やる気を出せば無茶な競争に巻き込まれる。そもそも堕楽という名は、争わず慌てず、無防備で生きろという願いから来ている。

「あっはっは!

わかりやすいのぉ、ならば帰るとしよう。確かに急かす必要は無い!」

不快な顔を一つせず、上へと昇っていく。本当の慈善事業だ。見返りを求めず、ただやって還る。


「あ!

..おい、なんで還しちゃうんだよ!」

「言ったろ?

しんどいんだって。」

「しんどいってお前...そういえば門番はどこいったんだ?」

「忙しいわねアンタ。

〝持ち場に戻る〟とかいって途中で消えたわよ」

「そうなのか。

...なぁ、一つ提案なんだけどよ」

「何?」「..なに?」

声色を落とし、真剣な面持ちで再度話しなおす。

「さっき如来の話とかお前らの話聞いて思ったんだけどよ、オレ達..バラバラに修行しねぇ?」

「..別にいいけど。」

「うん

最初から組んだつもりないしね」

思ったよりドライ、理解がはやい。

「じゃ」

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