天外の現ーてんがいのうつつー

アリエッティ

第1話

「ふう..どうだ、今年は。」

「さぁ、どうでしょうねぇ...」

散らない桜、いつでも観て和めるように自ら創り出した至高の賜物。花も団子も区別なく愉しむ。


一つの世界の名をそう呼ぶ。

統括するのは如来、悟りを開いた始祖であり常識、始まりの概念。

終わりは無いが流れるものは動きを変えて次に移る、生きる者は皆おそらく

それを寿命と呼ぶのだろう。


「合掌!」

大勢の菩薩が列を組み手を合わせる。

「各自修行へはいれ!」

毎回の集会、修行の身である菩薩を集め様子を伺う。最後の挨拶を済ませた後、手元の鈴を鳴らすのが解散の合図だ。

「よっ、溢れ屋!

本日も浮かない顔でありんすね?」

「別に普通の顔だよ、こういう顔。」

しかめ面とも不貞腐れとも言えない無の表情で、明るい者を軽く遇らう。その割にはいつまでも如来になれない事で落ち溢れと呼ばれた。

「お前だってなれてないだろ」

「オレ様はお前より日が浅いからよ」

「いつも言うよな、それ..」

そもそも一度になれる数が稀な為小手先の在り方で競う他無いのだ。

「今年上がった奴はどいつだ〜?」

「時空だよ。」「..あいつかよ」

群を抜いて飛ぶ奴は忌み嫌われる事が多い。それを目指して動くと失敗する

が、輝かしく見えるものらしい。

「まだ残ってんの?

鈍臭..はやくすれば。」

観音かのん、どしたよ?」

「はやく来いって云ってんの。

一度でわかるでしょ、修行するの」

「怖っ..行こうぜ堕楽。」

気が強いように思えるが単に情が薄いだけ、気遣いという概念を持ち合わせていない。

「頼むからさ。

一人で行ってくれないかな..」

直接言っても効かないので、独り言で済ますが、紛れも無い本心である。


「……む?」

「どうした、阿形。」

「いや..何でもない」「そうか?」

門を護りし仁王の神

仏への侵入は彼等が見張る。


「なぁ、ここで何しろって?」

「いつもと同じよ」

「また式神と戦うのかよ〜!」

「文句言わないで、弱いくせに。」

「確かに負け越してるな..」

「お前までいうかよ」

菩薩には一式ずつ式神とよばれる紙の化身を配布される。己に合わせて力を設定し、手合わせの相手として使用するが、殆どは意味がないので他人に設定された自分以外の式神と戦う事が多い。

「段階は8、威力は6、これでいい?」

「昨日より低いじゃねぇかよ!

普通上げてくもんだろこういうの!」

「勝てないから下げてんでしょ。

察しなさいよ客観視してさ」

「オレは先に行くんだよっ!

ザコを殴ってる場合じゃねーの!!」

「やめときなよ、ケガするよ?」

「..あら、わかってるわね。

アッチの方が身の丈知ってるわ」

そっぽを向いて石の上に座っている者にしてみれば活気に満ちた大口な男など考えられない存在なのだろう。


「んな事いうならお前が相手しろ!

どっちが強いか決めようぜ!」

「なんでそうなんの..?」

「馬鹿馬鹿しい..」

「お前ズリィんだよ二人で組んでよ!

オレが弱いみたいにどうしてもしたいんだろ!?」

「何言ってんの..。」

「だから来たくなかったのに、別に強くなりたくないんだからさ」

「んだよつまんねぇなぁ〜!

怒れよ、で、襲って来いって!」

「..馬鹿じゃないの?」

はぁ..。」

初め何かの演習か何かで組まされた三人で、それっきりだと思ったがこの陽気な男、曼荼まんだによって何故か常に行動を共にさせられるようになった。気が進まない上元々性が合わず堕楽は正直苦手としている。

「な、じゃあさ!

天部の連中に喧嘩売りに行こうぜ?」

「勝手にすれば、巻き込まないで」

「お前に言ってねぇよ。

..な、行こうぜ堕楽!なっ!」

「天部って、仏を護る神々でしょ?

普通に強いでしょ菩薩より」

「だからなんだよ!

上のもんに噛み付いてこそ男だろ!」


仁王の入り口

「...む。」「またか、今度は何だ?」

気のせいだと一度置いたものが、再びぶり返し感覚に触れた。

「やはりだ、何かいる」

「本当か、唯の来客でも無さそうだ」

「すぅ〜。」「はぁ〜。」


『阿吽の呼吸』


同時に空気を取り込み、息を合わせる事で感覚を研ぎ澄まし神経を向上させる。

「む?」「ん?」

直前まで気配は目の前に来ていた。しかし眼前で、突然消えた。

「おかしいな..」「どこに...?」

気のせいや見違える事は決して無い。

全方位抜け目を持たず視覚、感覚で確認している。失敗はあり得ない。

「吽形..どうだ、何か...」

「後ろだ!阿形!」

「なっ..!?」

黒光りする不気味な魔物、眼光鋭く獣の如く疾り嗤う。


「..⁉︎」

「何だよ、そんな驚いた顔して。」

「今の音なんだろ..?」

「なんだよ音って、こんななんにも無い所でさ!」

「うるさいっ!」「……」

「なんだよ」 「黙って。」

観音が耳を澄ます。

情の無い彼女が、感覚で触れる異変。

「来るよ..」「来るって何が!?」

「嫌でもすぐわかる

とても悪いものだって。」

言葉を言い切り数分後、疾走音が轟く

「..なんだよ、ありゃあ...」

「素早い...獣?」

黒い豹、それにしては身体が大きい。


「亜異故菩薩..!」「あい、何?」

唸り本能を剥き出しに、強い力が飛び上がる。

「あっ!」「ばっ、避けろ観音..!」

目を合わせた華奢な女を躊躇なく襲う気付いた頃にはもう、爪を立てる最中の段階に入っていた。

「ふんっ!」 「あれ..!」

 「...貴方は!」

二対の金剛力士の片方が、棍棒を盾とし立ち塞がる。

「吽形!?」

「何しに来たの、ヘバってるけど。」

「はぁ、はぁ..よくわかったな娘、これが亜異故菩薩だと!」

「聞いてる事と違うけど?」

「阿形なら延びている、不意を突かれてな。まったくやるものだ!」

「関心するんだ..。」

阿吽の呼吸を崩され感覚を超えたとあらば称賛する他無い。

「一人で勝てんのかよ!?」

「如来様には御報告した、せいぜい隙間を埋める程度だ!」

「如来を呼んだ?

ここに来るワケ、阿弥陀様が?」

「その通りだぁっ!」


『キュルキュルキュル...』

鳥の様な鳴き声でなき、獣の爪で引き裂く。混合した生き物が身体を造るように、醜い偶像物の様な出で立ちだ。「なんなんだコイツは..?」


「それじゃ、参るとするかの。

後は頼むぞ鳳凰ほうおうよ。」

腰をゆっくりと上げ何処かへ消える。

「..さて始めるか、時空」

 「…」

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