結婚前夜

雨世界

1 僕と結婚してください。

 結婚前夜


 プロローグ


 愛があるから。

 君がいるから。

 泣いちゃいそうだよ。


 本編


 僕と結婚してください。


 あなたは私にそう言った。

 真っ直ぐ私の目を見てそう言った。少しも照れずにそう言ってくれた。


 それは、本当に真っ直ぐな愛の告白だった。


 笑っちゃうくらいに真っ直ぐだった。

 だから私は現実に笑っていた。

 あなたの前で幸せそうな顔で笑っていた。(と思う)


 ……泣きながら、嬉しくって笑ってた。


「返事を聞かせてください」

 あなたは言った。


 私はあなたの言葉に「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」と言った。その言葉は自然と私の口から出た。

 結婚なんてまだまだ先の話で、私には当分関係のない話かと思っていたのだけど、それは突然にやってきた。


 私はそれを受け入れることができた。

 あなたの愛を。

 あなたの気持ちを。

 きちんとこの胸で、この腕で、受け止めることができた。それがすごく嬉しかった。


 綺麗。

 本当に世界って綺麗だと思う。

 世界が綺麗に見える。


 それってさ。

 どういうことなんだろうね。


 元から世界は綺麗なのかな?

 

 それとも、……それはあなたのおかげなのかな?


 愛があるからなのかな?


 ねえ、どう思う?


 今、あなたの目には世界はどう見えていますか?


 世界は綺麗ですか?

 世界は、美しいままですか?

 汚れていたり、滲んでいたり、歪んでいたり、しませんか?


 ……あなたの目に私はどう映っていますか?


 聞きたいことがたくさんあった。

 知りたいことが山ほどあった。

 

 欲しいものがあった。

 私が『本当に欲しかったもの』がそこにはあった。あなたと『ふたりでないと手に入れることができない大切なもの』がたしかにあった。(それはお金では買えないものだ。別にお金を否定しているわけじゃないけど……、私が本当に欲しかったものは、私が自分で生み出すものだったのだ)

 

 だから私はあなたと結婚をすることにした。

 あなたとふたりで、幸せになることに決めたのだ。


「ありがとう。必ず君を幸せにする」とあなたは言った。

「ありがとう。私を幸せにしてください」と私は言った。


 幸せは本当はふたりで作るものだとわかっていた。

 でも今は、少しだけあなたに甘えたかった。

 

 最後にちょっとだけ、子供のままでいたいと思ったのだ。


 それから私はあなたと結婚をした。


 結婚の少しあとで、

「綺麗だね。世界ってさ」

 私は言った。

「うん。本当に綺麗だ」とあなたは言った。


 それであなたの見ている世界が綺麗なのだと私にもわかった。

 あなたと結婚をしてよかったと私は思った。


 あなたと一緒に見る世界は、……たしかにずっと美しかった。


 あのときと同じように、美しいままだった。


 そのとき、私とあなたの真ん中で君が幸せそうに笑った。


 だから君にも、世界が綺麗に見えているのだと私にはわかった。


 結婚前夜 終わり

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結婚前夜 雨世界 @amesekai

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