便りと信頼の花

 書き記された言葉のみが、想いを伝える手段である世界。

 もしも、自分と千鳥があの世界に居たら、と。決してあり得ない可能性ではない事をふと考える。

 綴る文字でしか交流が叶わないとしたら。声や音を伝えられない世界であるのなら。

 辰哉が真っ先に思ったことは。演奏を――千鳥の奏でる音を聴く機会を失ってしまうのは残念でならない、というものだった。

 決して千鳥が嘘を書くとは思わないし、書いたとしても見抜くだろうが。尤もそれは、向こうも同じように思っている事だろうけれど。

 面と向かって演奏を褒め称えた事は、幼い頃を除けば殆どない。それでも、辰哉は千鳥の演奏を本心から評価していた。


 しかし。そう思ったことは事実だが。演奏の才だけが千鳥の価値でないことは流石の辰哉でも承知している。

 千鳥の演奏が響くのは、彼の心がその音に乗るからだ。純粋で、真摯に想う愛情が奏でる音色を至上のものとしている。

 寄り添う千鳥の心は、常に傷を負う辰哉を癒した。

 迷いも、躊躇いも無く信じて、裏切らない。何処までも、辰哉の思うままに進めばいいと背中を押してくれる。

 だから、辰哉も口にする事が出来る。千鳥のみに向ける、信頼の言葉を。



「俺と、共に来い。千鳥」


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吉報の白花 ゆたか@水音 豊 @bell_trpg

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