その知らせは彼方から
「何それ手紙?あ、もしかしてこの前の人たちのヤツ?」
「俺宛のものだ。覗き込んでくるな」
邪魔だと手で振り払えば、軽くのしかかって来た男は仕方無いと言わんばかりに剥れる。睨んでも堪えた様子は無い。
「ちぇー。オレだってあそこ一緒に居たんだからいーじゃんかー」
タツヤのケチ、と唇を尖らせてみせる千鳥を無視して紙面へと目を落とす。
黒いインクで綴られた端正な言葉が綴られていた。その下には、陽を思わせる色で書き記された一枚が潜んでいる。
内容としては彼らの近状を伝える、言ってしまえば他愛のないものだったが。それらは掛け替えのない価値を持つものだと、辰哉には分かっていた。
そして。その二通のものの下に隠れるように、もう一枚。
合計で3通ある手紙にじっくり目を通した後に、辰哉は呟いた。
「……返事を、送らなければならないな」
それが礼儀だろうと、堅物の男はほんの僅かに目の色を和らげる。些細な変化に気付いた千鳥もまた、柔らかな笑みを浮かべたのだった。
「そうだぞー。ちゃんと丁寧に書くんだぞ。ただでさえお前、言葉が足りないって常々言われてるんだからな」
「どの口が“丁寧に書け”なんて言うんだ……」
小言を零しながら、辰哉は引き出しから白いシンプルな便箋とペンを取り出す。遠い世界に生きる戦友への手紙を認める為に。
あの時の感謝を。『二人と、仲間として共に戦えてよかった』と。辰哉はまだ、彼らに伝えていないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます