四.デート
四.デート
「うーん、どうしたものかしらね」
高貴な妹は高貴な兄の部屋を行ったりきたりしながら、これからの方策を考えていた。
「思いつかないわ。とりあえずそのことは忘れて今日はお兄様とデートに行きましょう。魚のお兄様とデートができるなんて一生に一度のことかもしれないしね。だいじょうぶよ、他の人の事なんてかまわなくていいから。さ、出かけましょ」
そうして高貴な兄は高貴な妹とともに数か月ぶりのデートに赴いたのであるが、彼らの向かった先は次のとおりであった。
超宝島公園。総面積約百五十ヘクタール。休日は家族連れやカップルでにぎわう。まるで牛のように芝生で寝そべる人々や何時間もジョギングを行っている人々がいる。高貴な兄と妹は広い芝生の上でフリスビーに興じた。
「お兄様、いくよー。それっ」高貴な妹は声を張り上げ兄に向かってフリスビーを投げた。フリスビーは軌道をやや外れた上方を飛んだが、高貴な兄は犬のようにジャンプして魚の歯でフリスビーをくわえた。
「お兄様、ナイスキャッチ」
超宝島公園内の池。貸しボートがある。
池には鴨や水鳥が泳ぎ、うららかな時間が流れているように感じられたが、突然あたりは騒ぎになった。何と小さな女の子がボートから池に転落したのである。助けを呼び求める声が聞こえた。
ざっぱーん。
絵に描いたような効果音とともに高貴な兄は池の中に入り、ひそかに泳ぎの練習をしていた彼は魚の泳ぎで勇敢にも女の子を助け、女の子は一命をとり止めたのだった。
高貴な兄は女の子の母親から大変感謝された。これなら魚の姿になったのも無駄ではなかったのかなと高貴な兄は思った。
昼の食事。間に合わせのハンバーガー店。八段重ねの超ビッグハンバーガー、テラスペシャル。それを二人で半分にして食べる。
「これ毎日食べてたら絶対健康面に悪影響があるわよね」
ソフトクリーム全五百三十種類。テレビ、雑誌、インターネットなどでこぞって紹介される人気の店である。
「わたしはこのオイスターのフレーバー。お兄様は、どれにする?」
歴史ある国立の美術館、ナナオ国立美術館。現在の企画点は「展覧会の絵」。だが、ヴィクトル・ハルトマンの作品ではない。彼らはそこをゆっくりと見て回った。これらの絵は後ほど掲載する。
ミナモマリン水族館。近代的で設備の整った水族館である。イルカショーあり。
だがここは高貴な兄が間違えて水槽に入れられてはたまらないので、通り過ぎた。
映画館。近代的で設備の整った映画館である。全三十五スクリーン。今上映している注目の映画はとあるラブ・ロマンスであったが、他のはぱっとしないので仕方なく高貴な兄と妹はそれを観ることにした。
上映末期なのであまり人はいなかった。彼らのほかは誰もいない劇場内の、白く映し出されたスクリーンでは熱烈なラブシーンが演じられていた。
「ああオスカル、ジュテーム……」
道の向こうに大きな夕日が見えるなか岐路に着いた。高貴な兄と高貴な妹の影は道に伸び、地面には高貴な兄の魚の頭が描き出されていた。高貴な妹は言った。
「今日はとても楽しかったわ。ね、来てよかったでしょ。お兄様の勇敢な姿も見られたしね。あの女の子もきっとお兄様には感謝するわよ」
途中で妹と別れた高貴な兄は、いつまでこの姿のままでいるのかわからないと考えながら、今はただ家路に帰る道を黙々と歩き続けたのだった。
高貴な兄と高貴な妹の物語 onrie @bicarbonate
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