三.襲撃

   三.襲撃


 さる六月二十八日の午後一時三十二分、高貴な妹は例のレストランを襲撃した。うららかな午後の時間帯であり、客たちは銘々に人生のひとときを楽しんでいたが、突然店のドアが勢いよく開け放たれその束の間の平和は打ち破られた。そしてマスクにサングラスをした人物が店内に入ってきた。

「店長を出しなさい」高貴な妹は店内に侵入するなり言い放った。

 店員の男はレジの前で思ったより金額が少ないことに頭を悩ませていたのだが、高貴な妹を見るとあっけにとられた。

「店長はただ今外出中ですが……」

 なおアルバイト勤続三年の彼女は前回の騒ぎに嫌気が差して辞めてしまっていた。なので今回の騒動には巻き込まれずに済んだのである。

「店長を出すのよ。隠しても無駄よ」

 高貴な妹は後ろに隠していたマシンガンを天井めがけて撃ち放った。

「ズバババババババ」

「ひいっ」

 弾丸は上の壁をぶち抜き、天井に六つばかりの穴を空けた。そこにいた客たちは緊急事態であることを察し銘々テーブルや床に身を伏せた。

「早くしなさい。でないとあなたたち全員縛り首よ」

「どうかお助けを!」店員の男は堪忍して叫んだ。

 何故おれはこんなことに巻き込まれなければいけないんだ。察するにこれはおれがアクションやサスペンスものの映画を見すぎたからに違いない。あまりにも映画を見すぎたためそのようなことが実際に起こってしまったんだ。どうせならもうちょっとましな配役を当てられて欲しかったものだ。そして彼は銃撃戦で自分が撃たれる場面を想像した。ああ、おれはここで死ぬのか、だが悲劇の人物として死ぬのも悪くあるまい。

「とにかく店長を出すのよ。わたしがこれから十数えるうちによ。一、二、三、四……」

「は、はいっ! 今すぐ見てきます!」

 そして店員の男はとにかくも店長を探しに行ったが、彼の戻ってくるまでに高貴な妹は十まで数を数え終え、またしてもマシンガンを天井目がけてぶっ放したのだった。

 ズガズガズガ、ドドドドド。

「遅いわね。一体を何やってるのかしら?」

 店員の男が戻ってきた。「店長が逃げました! 金庫の金もなくなっています!」

「何ですって? 本当かしら? とにかく金庫の前に案内しなさい」

 高貴な妹は店員の男に金庫の前まで案内させた。

「このとおり、でして……」

 店員の男の言うとおり金庫の中はすっからかんになっていた。ただ中には一枚の置手紙が残されていた。


 一足遅かったようだな。諸君は私には追いつけまい。私のことを探しても、無駄だ!

 以上


 この極めて奸智に長けた店長は、高貴な妹が今日やってくることを見越し、店の金を横領し海外へ高飛びの真最中だった。高貴な妹は手紙を読むと目の前が暗くなったが、何とかその場を取りつくろって言った。

「あっ、やだ、もう、わたしったらそそっかしいんだから。おほほほほほほほ それじゃあ、失礼しましたー」

 そして高貴な妹は来たときと同じように店のドアから出て行った。それを見届けた店員の男は、床にがくりと膝をついた。

「もうだめだ、この店は……」そして家に帰ったらこれからはカンフーものの映画を見ようと決心した。

 それからこのレストランにはある噂が飛び交った。夜な夜な店内を魚やクラゲの霊が飛び交うというのである。ある者はクジラの霊も見たと証言した。そのため徐々に人がいなくなって廃れ、廃屋になって潰れた。

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