弓子の訪問
亮の大学の学生生活は忙しかった。
理学療法士の資格を取る為に、
大学の授業が終わると理学療法士の
専門学校へ行かねばならず帰宅は毎日
夜の10時だったが
ある日の昼にテニス同好会の練習をしていた。
「久しぶりだな團」
3年でキャプテンの落合が声を掛けた。
「すみません、勉強が忙しくて」
「しょうがない、うちの大学は学業優先だからな」
「はい」
「せめて試合だけでも出られないか?」
「日程によりますけど日曜日なら」
「分かった、エントリーの準備しておく」
「はい」
インターハイに出場経験者の落合正美と亮が練習をすると
周りの人間が目を見張る打ち合いで、亮は落合を打ち負かした
「團、すごいなあ。高校時代は本当に大会に出た事無かったのか?」
「ええ、部活していなかったので」
「そうか、民間のテニス倶楽部か」
「はい」
そこへ同学年の原美咲がスポーツドリンクを持ってきた
「團君凄い、落合先輩を負かすなんて」
「たまたまです」
「團君、今日この後飲み会があるけど・・・」
「すみません、帰ります」
「そう・・・」
美咲は入部して一度もテニス部の飲み会に参加しない
亮を不思議に思っていた。
「薬学部ってそんなに忙しいの?」
「いいえ、夜は専門学校へ行っているので」
「えっ?何の」
「理学療法士の学校です」
「理学療法士?」
「はい」
美咲は理学療法士の学校へ行く東大生の
亮が不思議でならなかった
「大学と専門学校両方の学校へ行けるの?」
「ええ、専門学校の方は4年制で授業時間が
短いから夜間部の単位を調整して
行っています」
「そう、本当に忙しいのね」
「ええ」
「でも、どうして?」
「家庭の事情です」
亮は先祖の團正志斎が残した秘孔の調査の為に
骨格、筋肉を勉強したかったのだ
~~~~~~~~
秋山良子はディズニーランドへ一緒に
行った仲間と飲みに行った
「良子だけ一人だから俺の友達連れてきたよ」
弓子の彼氏の佐田が言った
「初めまして本田徹です」
徹は良子上から下まで舐めるように眺めた
「ねえ、良子。團君今日も来ないの?」
弓子が残念そうに聞いた。
「うん、土日曜日以外は学校で家に帰る
のは毎晩10時過ぎだって」
「さすが東大生ね、私なんか大学に入ったら
勉強なんか必要ないと思っていた」
弓子が言うと良子は亮の家庭教師の事が気になっていた。
「そう言えば妹さんの勉強はどうなったの?」
「今度の日曜日に教えてくれるって言っていたわ」
「良かったじゃない、彼勉強を教えるの上手らしいわ」
「そう、私も行こうかな」
弓子は一度亮の家を見てみたかった。
「行けばいいよ、どんな家か後で教えて」
「あら、良子行った事ないの?」
「ええ」
良子は返事をはっきりとしなかった。
「良子ちゃん、元気ないね。さあ、飲もう」
徹が良子にお酒を持って来て話しを始め、
話し上手の徹で良子は久しぶりに楽しい夜
にしてくれ、トイレの前で良子は徹にいきなりキスをされた
日曜日の13時に亮の家に来た弓子と
妹の幸子は玄関の前で唖然としていた
「お姉ちゃん、ここホテル?」
「ううん、表札には團って書いてある」
「そうか、間違いない」
弓子がチャイムを鳴らすと亮の声が聞こえた
「どうぞ」
すると門扉のロックが解除され扉が開き
弓子と幸子は恐る恐る家の中に入って行った
「いらっしゃい」
亮が元気に出迎え応接室に通されると
そこから中庭が見えそこにテニスコートがあった
「お姉ちゃんテニスコートがある」
「う、うん」
弓子と幸子は言葉が出なかった。
飲み物を持ってきた亮に弓子は妹の幸子を紹介した。
「團さんテニスコートがあるんですね?」
「ええ、でもテニスコートはバスケットコートより
狭いんですよ」
亮に返事は的外れだった。
「まさかプールが有ったりして」
弓子が聞いた。
「ありますよ、南側に」
「ああ、そう」
「幸子さん、苦手な教科は?」
「英語と数学あと日本史」
「分かりました、じゃあ飲み物を
飲み終えたら僕の部屋で」
亮がそう言うと外国人の夫婦らしき
男女が中庭で休んでいた
「あのう、團さんあの二人は」
「父の友達です、幸子さん英会話の勉強をするなら
彼らのようなネイティブ
と話をするのが1番いいですよ」
「ええ、でも・・・」
幸子がモゾモゾしていると秀樹が
トレーニングウエア姿で弓子たちの声を掛けた
「やあ、いらっしゃい」
「お邪魔しています、今日は亮さんに勉強を教わりに」
弓子と幸子が立ち上がって秀樹に挨拶をした
「そうですか、ところでお姉さんも勉強を?」
「いいえ、付き添いです」
「そうか、お姉さんテニスできますか?」
「少し」
弓子は恥ずかしそうに言うと秀樹は弓子を誘った。
「ちょうど良かった、一緒にテニスをしませんか?」
亮が幸子に勉強を教えている間
弓子は秀樹達とテニスをしたりおしゃべりをしたり
楽しんでいた。
弓子と幸子は亮に見送られ家を
満足そうな顔をして出た
~~~~~~~~
「幸子どうだった?勉強」
「それが凄く分かりやすくて、
勉強の仕方も教えてくれたよ」
「よかったね」
「これからメールで教えてくれるって、お姉ちゃんは?」
「楽しかったよ、あの外人夫婦アメリカの貿易商で
ビバリーヒルズに住んでいるんだって」
「すごい!それに自宅にテニスコートがあるなんて凄いわ」
「家の向こう側が目白テニス倶楽部で
團さんの家が経営しているんだって」
「お姉ちゃん、佐田さんより團さんの方が絶対良いよ」
「そうだね」
弓子は亮と良子が深い関係になっていない事を知っていて
亮を誘惑して奪う事を考えていた
~~~~~~~~~
その夜、秀樹は真剣な顔で亮に話をした。
「亮、お前卒業したらアメリカに留学しないか?」
「えっ?」
「今日来ていた。スミス夫妻と話をしたんだが
お前の将来を考えると
一度アメリカに住んで勉強したほうが、
メリットが有るだろうって」
「はい、考えておきます」
「おっ、珍しく即答しないんだな」
「ええ、卒業したらすぐにやりたい事が」
「なんだ、薬の研究か?」
「はい、糖尿病と白血病の研究レポートを
大学の教授が興味を持ってくれたので」
「そうか・・・」
秀樹は多方面に才能ある亮がどう
変わっていくか予想も出来なかった
「まあ、将来お前が立派なリーダーになってくれればいい」
「リーダーなんて無理です」
「そうかな、俺はそう思わん。お前には人を
引き付ける天賦の才があると思っている」
「でも、友達は少ないですよ」
「それは、お前が拒否しているだけだ」
「拒否はしていません。ただ・・・」
「勉強の邪魔だからだろう」
「は、はい」
「じゃあ、好きなだけ勉強をしろ。
勉強をして心に余裕が出来たら
友を探せ、本当の友達が見つかるはずだ」
「はい」
秀樹が言いたかったのは、心の弱い時期に出来た友達は
傷を舐めあって付き合うだけで、心に余裕が出た時の
友達は永遠の友達だと
「でも、学校2つも行って遊ぶ暇が無いな」
「別に良いですよ、遊ばなくても」
「おいおい、そんなことしていたら
彼女に逃げられるぞ」
「お父さん、男性と女性って
遊ばなくちゃいけないんですか?」
「うーん、それが問題だな。男性と女性は互いに
気持ちが相手を何処まで好きか分からないでいる、
それぞれ生まれも育ちも違うからな、
それを共通の時間を
作ってお互いを解り合うんだ」
「はい」
亮はあまり理解できず返事をしないでいた。
「人は楽しい時に本当の心が出るんだ、
硬いものが柔らかくなったり、
怯えていたものが取り去られたり、
だから遊びは必要だ。決して相手を騙すものではない」
「はい」
「問題は秋山さんも岩倉弓子さんも男を知っているが
お前はまだ童貞と言うことだ
だから求めるものが違うだろう」
「そ、そうですね」
「まあ、古文書でも見てがんばれ」
「はい」
秀樹は亮の背中を押したつもりが、
この一言が亮の人生を変えてしまった
亮は3冊目の古文書つまりセッ〇スの
テクニックの解読を始めた
~~~~~~~~
翌日の月曜日に大学の前の喫茶店で良子と弓子が話をしていた
「良子、團さんの家すごかったわ。家にテニスコートがあるのね」
「そうなの?」
「あら、行った事のないの?ホテルみたいな家よ」
弓子は自慢気に話した
「そう」
良子は悲しくて涙が出そうになった
「そうだ、またみんなで飲みに行こうって本田君が言っていたわ」
「そう」
良子は徹にキスをされた事を思い出し
また会ってみたいような
怖いような複雑な気持ちだった。
「ねえ、じゃあまたセッティングするね」
「わかったわ」
良子は仕方なしに返事をした
良子は寂しくなって亮の携帯に
電話をかけても電源が切られたままで
メールを出すほどの問題では
無く打ち始めて途中で切った。
5月1日、亮は良子を自分の出場するテニス大会に誘った
「秋山さんすみません、連休中に」
「ううん、團君の試合一度見てみたかったから」
亮はその言葉で心臓がドキドキするのが分かった
「はい、がんばります」
生まれて初めて試合をする亮は不安を感じた。
相手が自分よりどんなに強いのか、
それに対して自分の体力がどれだけ
持つのか、未知のものに対する不安が
どれほど深いのかを感じていた
試合が始まると亮の動きが硬く
簡単に1セットを落とした
テニスと言うスポーツは試合が始まると
終わるまで誰とも話が出来ない
孤独なスポーツで亮は頭の中で
祖父がなぜ自分にテニスをさせたか
初めて分かった
「判断力とスピード」
亮はイメージングをしてアドレナリンが
出るように自分を興奮状態にしていった
第2セット、第3セットを連続で取って
亮は生まれて初めてテニスの試合で勝った
「おめでとう、ひやひやしちゃった」
良子は汗をかいた亮を頼もしく思った
「ありがとう」
そこへ、落合と美咲が来た
「がんばったな團。相手はシード選手
だからたいしたものだ」
「ありがとうございます」
「あっ、彼女か?」
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