コピーバッグ

数日後、亮は高田義信の事を

秋山良子から聞きだし秀樹に報告した。

「高田義信はJP通販の高田信夫常務の息子で

 父親に色々とアドバイスを受けて

仕事を成功させている様子です」


「うん、それでサイトの名前は」

「『ブランド生活』です」

「なるほどなあ」

「元々、学生が海外へ旅行に行った時に買ったブランド品を

買い取る方式で販売商品を集めて売っていたそうです」


「なるほど、学生らしいアイディアだ」

「ところがそれでは商品回転が間に合わず、

JP通販から商品を買っているそうです」

「なるほど、それでうちに時々ブランド商品の

オーダーが来るわけだ」

秀樹は納得した。


「それで、商品カタログの中に通常価格の30%オフ

格安ブランド商品があるんですが」

「中古品か?」

「いいえ、新品です。おそらくコピー商品かと・・・」

「それは、ゆるせねえ。罪を犯すとはガキのくせに」

秀樹の心は煮えくり返って来た。


「ええ、偽物を買わされている人が気の毒です」

「証拠を掴んだら俺の方から警察に摘発する。できるか?」

「やってみます」

「うん、うまく行ったら欲しいもの言ってくれ」

「はい」

亮はその日から時間のある時に美宝堂に通いだし

ブランド品を見ることにした


~~~~~~~~~~

「お父さん、亮が毎日美宝堂に来ているわよ」

美佐江が秀樹に報告をした。

「うん、あいつのやる事は常人じゃ考えらない」

「どうするつもりなのかしら?」

「美宝堂にある本物を見て、ブランドの鑑定をするつもりだろう」

「うちにあるすべての商品の?」


「あいつなら出来るだろう、頭の中がコンピューターだからな」

「ええ、昨日ダイアモンドの鑑定資格を取りたいって言っていたわ」

「ほう、面白い。美佐江と亮がいれば原石の輸入が出来るな」

「うん、原石からならカットデザインが出来るわ」

「亮は、今日はどうしている?」

「千沙子と洋服のブランドのチェックをしているわ」

「それは無理だろう」


「それが、洋服を見て各ブランドのチーフデザイナーの

特徴と傾向を分析できるんだって」

「あはは、あと1ヶ月もすればファッション評論家になれるな」

「それからもう1つ、亮がいる売り場、必ず売上げ上がるの」


~~~~~~~~~~~~

亮は洋服を1点1点見ていると目の前にいる女性に気が付いた。

「ん?これ」

1着のワンピースを取り出すと天井にかざし

光を当てて見てニヤリと笑うと

店内を歩いている、30歳くらいの

女性を見つけ亮は声をかけた

「いらっしゃいませ」


その女性は少し地味な感じの服を

着ていて亮に向って会釈した。

「お客様、この服を着てみませんか?」

「は、はい?」

「きっとお似合いですよ、着てみるだけでいいですから」

「は、はい」


女性はフィッティングルームで着替えると足元に靴が用意されていた

「それを履いてください」

「はい」

そして、女性が鏡の前に立つと目が輝いた

「素敵!」

そういって自分の体を何度も見ていると亮が話しかけた。

「とてもお似合いです、このワンピースは

ウエストが絞り込んであるので

 お客様のようにウエストの細い方には最高です」

「ええ」

女性は笑顔でいっぱいになった。


「これいただくわ」

「ありがとうございます」

「それとこの靴も」

「ありがとうございます」

亮は押し売りのようで気が引けていると

女性はフィッティングルームから出てきて

脱いだ洋服を他の店員に渡した。


「私このお店に来るのがはじめでだったけど、

こんな商品の売り方する店員さんは初めてだったわ」

「すみません」

「ううん、いいのよ。あなた、センスがいいわ。

他の物も見ていただけるかしら

 今の服に合ったバッグも」

「は、はい」

亮がその女性に付いていった。


~~~~~~~~~~

「ほう、凄いなあ」

それを見ていた秀樹はニヤニヤと笑った。

「あのお客様は岩田財閥の奥さまでした。

今までMデパートに行っていたそうなのですが、

 今日ふらっと立ち寄ったら亮に声をかけられたそうです」

事の詳細を秀樹に伝えた。

「それは運が悪かった、ん?良かったのか」

「今日、岩田様が買われた金額が300万円よ、お父さん」


「あはは、女の子と話もできない亮が

300万円も商品を売ったのか。あはは」

秀樹は大笑いをした。


~~~~~~~~~~

それから1週間で亮は美宝堂の商品をすべて頭に入れ

販売価格、仕入れ価格、粗利益、

商品回転率まで分析を終えたところに

秀樹は亮を社長室に呼び出した。

「亮、どうだ」

「おかげさまで、ブランド品が分かりました」

「うん」


「ブランド品は完璧です、デザイン、素材、技術、

作った人の魂とパワーが感じられます」

「お前もう分かったのか」

秀樹は驚いていた。

「はい、ブランド品は間違いなく値段相応の価値があるものです」

亮は秀樹に頭を下げた。

「うん、そうだ」

「だから、コピー商品は許せません」

「うん、ところでお前は1ヶ月で5000万円の売上げを上げた」

「はい、粗利益で1350万円です」

「あはは、計算していたのか」


「はい、バレンタインデーの食事代とアットリーニのスーツ代を返さないと」

「わかった、アルバイト代と相殺しておくスーツは誕生日のプレゼントだ」

「ああ、よかった」


亮は借金を返してホッしていた。

「それで亮、どうして売上げを上げたか分かっているのか?」

「はい、いい商品だから自信を持ってお客さんに勧めたからです」

「なるほどな、いい事聞いた」

「では、『ブランド生活』を攻撃いたします」

「うん、怪しい物はドンドン買って良いぞ」

「分かりました、ただ一人でたくさん買うと怪しまれますから

 住所を変えて注文しましょう」

「そうだな、受け取ってくれる人の住所は後で連絡する」

「はい」


~~~~~

その日、亮は良子を食事に誘った。

バレンタインデーの日から亮と良子は時々一緒に映画や食事へ行くようなり

亮も次第に会話が長く続くようになっていた

「秋山さんお久しぶりです」

「アルバイトの方どう?」

「もう終わりました、食事に行きませんか?」

「本当?嬉しい」

二人は渋谷のセンター街にあるパスタ店に入って

良子に小さな包みを渡した。


「アルバイト料が入ったから」

「ほんとう、嬉しい。開けていい」

「はい」

良子が包み紙を取るとケースが出てきて

中には指輪が入っていた

「素敵!」

「姉がデザインしたリングです」

それはシルバーの台の真ん中に小さなピンクサファイアが

あしらってあるリングだった


「ありがとう」

「アルバイト料が良かったもので」

「聞いて良い。いくら貰ったの?」

「ええと、日当が8000円、20日で160000円

 源泉引かれて140000円」

「うん」

「それに、1350万円の3%歩合に

源泉引かれて36万4500円

 合計472500円そこから借金を返すと342500円」

「すごい、でも1350万円て何?」


「お店で売った商品の粗利です、それの

 歩合3%です」

「うふふ、團君まじめね、全部報告するんだ」

「報告って・・・聞かれたから」

亮は不思議な顔をした。


「團君って、お小遣いをいくら貰っているの?」

「お小遣い貰った事ないです」

「えっ?」

「うちの家族はお金が欲しい時は働くんです」

「でも、小学校の時は働けないし欲しいものあるでしょう」


「ええ、その時は万引きをして」

「えっ、嘘!」

「嘘です、あはは」

亮が珍しく冗談を言った。

「それで?」

「うちの家族は毎年お正月に1年分のお小遣いを貰うんです」

「うん」


「それで、自分で1年分の支出計画を立てるんです」

「うふふ、国家予算みたい」

「余った分は預金して高校になった時から、

資金運用して利益を出しています」

「そう」

亮は高田とまったく違った生き方に良子は唖然としていた、


「今、年収は?」

「あはは」

亮は笑ってごまかした

「秋山さん、その後の高田さんの様子分かりますか?」

「どうして?」

「いえ、あの時大騒ぎになってしまったから」

良子は大きく息を吐いた。


「連絡あったわ。川野さんと別れたって」

「そうなんですか、じゃあまたお付き合いを?」

「ううん、だって私高田さんの先輩に貢物にするらしいから」

「あの時、そう言っていましたね」

良子はうなずいた。


「先輩ってどんな人でしょうね」

「何処かの女子大の理事長らしいけど、30歳くらいらしいわ」

「若いんですね、2代目でしょうか?」

「ええ、そんな事言っていたような気がする」

「まさか・・・」

亮は高田が理事長に気を使うのはその

女子大生にブランド品を売っている事を

思い浮かべた。


「ねえ、團君。3月30日誕生日でしょう、もうすぐね」

「はい。今度19歳です」

「えっ、まだ?」

「ええ、早生まれなので」

「そうか・・・」

良子は肩を落とした


「どうしたんですか?」

「じゃあ、お酒まだ飲めないね」

「もちろんです。未成年ですから」

良子は亮がいくら金持ちでもいい人でも

映画館と喫茶店と食事だけの

付き合いで、お酒を飲んだりしてそれ以上の

男女の関係に発展しそうに無いのが

不満だった。


「私ね、キャビンアテンダントを目指す事にしたの」

「いいですねえ、CA」

亮は良子に顔を近づけていった

「團君のお姉さん見て思ったの、夢に向ってがんばろうって」

「姉達を目標にするのは賢明です。応援します。がんばってください」

亮は笑って言った。


~~~~~

亮は父親の指示した住所に届いたバッグを回収し

美宝堂で会議が行われ、秀樹が品物を見て言った。

「5個とも本物じゃないか、これがいくらだ?」

「定価の30%オフです」

亮がシリアルナンバーカードを見せた。


「微妙な線ね、でもどう考えても利益は無いわ、中古じゃない限り」

千沙子が丁寧に汚れを探していた。

「千沙子、シリアルナンバーで調べる事は出来るだろう」

「ええ、でもナンバーが合っていれば問題がないわ」

「なるほど」

秀樹はカードを見ていると首を傾げた。


「美佐江姉さんはどう思う?」

亮は美佐江に聞いた。

「このLVのバッグだけなんか怪しい気が

縫い目はしっかりしているけど

 留め金の刻印が不鮮明な感じがする」

美佐江が言った


「美佐江同じ物はあるか?」

「いいえ」

「亮、同じものを買って来い」

亮は同じバッグを買って持ち帰り秀樹がそれを取り出すと

買ってきたものリボンをつけた


「待って」

「なるほど」

四人はバッグを隅から隅までチェックをしていったが

違いは無かった。

「やはり本物か?」

秀樹が言うと亮が何度も指で触って言った


「ちょっと待ってください、何か違うんです皮の感じが」

「それとちょっと臭いが・・・」

美佐江と千沙子が亮に言われて臭いを嗅いで答えた

「同じ臭いだけど」

「調べてみます」

亮は自分の部屋に戻り「ブランド生活」から買った商品を

徹底的に調べ2日後、亮は秀樹にレポートで報告した


「あのバッグは偽物です」

「やはりそうか」

バッグの皮質、染料、金具の材質を調べました

「うん、ご苦労さん」

「まず金具の偽物の硬度が本物より0.5度やわらかく、

反射率が偽物のほうが3%

高くなっています。

これは製造上の誤差から外れています」


「うん」

「バッグのデザイン、サイズまったく同じですが。

皮の使い方が違っているんです」

「どんな風に」

「ストラップの部分が本物の方が硬くて頑丈です、

それに皮の目が違うんです横目の部分

があって長く使うと伸びてしまう可能性があります」


「なるほど、それで触感が違うと言ったんだな」

「ええ、それと皮を染めた染料が違います」

「うん」

「染料の本物はアメリカのD社製の紫外線防止剤が入っていますが

 偽物には入っていません」

「わかった、そうして調べないと分からんのか?」


「メーカーにはチェックする秘密があるんだと思いますが」

「スーパーコピーか?」

「はい」

「良くやった。すぐにメーカーに告発しよう」

「お願いします」

「奴らが知らずに売っていた事は無いだろうな」


「知っていたら30%オフで販売はしないと思います」

「うん、それと本物のバッグはどうなった?」

「バラバラになったままです」

「ああ・・・もったいない」

秀樹はがっかりとすると亮が笑った。


「大丈夫ですお父さん、元に戻せますから」

「本当か?」

「はい、ブランド品に改めて惚れ直しました、

すばらしい作業をしています」

亮はニッコリと笑った。

秀樹はすぐに「ブランド生活」をメーカーに告発をした


~~~~~~~~

1ヵ月後、赤いフェラーリに乗った義信が六本木の事務所に

着くと、ミニスカートをはいた女が義信と書類を持って話し始めた

「昨日の来た注文が123個、683万円でうち振込み入金が346万円、

残りがカード決済で本日100個発送できます」

「了解」


まもなく10人の男たちがダンボールもって入ってきた.

その中の一人の男が高田に話かけた。

「高田義信さんですね」

「な、なんですか?」

義信の顔から血の気が引いた。


「警視庁生活安全課の警部補、倉橋です。

あなたを商標法違反で逮捕します」

逮捕状を義信の目の前にかざすと

義信は慌てて携帯電話を手に取った。

「に、偽物なんて売っていません」

「電話は出来ない」

刑事は携帯電話を手に持つと高く持ち上げた。


「森、ワッパ掛けろ」

「はい」

義信は手錠を掛けられてもおとなしくする事なく喚いていた。

「弁護士、誰か弁護士を呼べ」

義信は腕を森刑事に抑えられ

社員に向って叫びながら事務所から出て行った。

さらに、足立区にあるマンションも

家宅捜査され1000点もの偽ブランド商品が

押収された。

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