ディナー

「秋山さん素敵ですね」

亮が言うと秋山は顔を赤らめた。

「團君も素敵」

良子は亮を見て顔を心臓がドキドキするのが分かった

「秋山さんのアクセサリーはピアジェで

統一したわ。もちろんレンタルだけど」

「ありがとう」

亮と良子が礼を言うと美佐江は携帯電話で二人の写真を撮った。


「お二人さんお似合いのカップルだね」

美佐江が微笑んだ。

「ねえ、團君」

「はい」

「どうして、お姉さんがこんなに一生懸命してくれるの?」

「シンデレラの魔法使いになった気分じゃないですか?」

「魔法使い?」

「ええ、ここへ来ればシンデレラになれる・・・ははは」

亮の言った言葉は、後に美宝堂の

若者向けのキャッチフレーズになった。


「秋山さん、あなたは今数百万円の物を身につけているの

 それは、ブランドと言う魔法の鎧、自信を持って行って」

「はい、ありがとうございます」

良子が丁寧に頭を下げると

二人が美宝堂ビルの8階のローラン・ギャロスに向った。

「秋山さん、これ」

亮は箱が入った紙袋を渡した。


「なに?」

「別に秋山さんのくれたチョコレートに不満じゃないんですよ。

あれは後でじっくりいただきます」

「あっ」

袋の中を覗いた良子が声を上げた。

「ル・フルールのチョコレートです。これを二人の前で

 僕に渡してください」

「はい」

亮のいった意味が分かった良子は微笑んだ。


「バレンタイン限定50箱、超レアなチョコレートです」

「あっ、知っています、1つ1000円のトリュフ」

「ええ、毎年姉たちに貰うこれがバレンタインの楽しみなんです

 一緒に食べましょう」

「はい」

良子はニッコリと笑った。


亮たちがローラン・ギャロスの入り口に立つと

支配人が亮の顔を見て深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました、團さま」

支配人が二人を案内すると

凛とした青年と美しく着飾った女性が他の客目を引いた。


亮たちの席の隣には高田と川野が座っており

二人は亮たちに気づかず

メニューを見ていた。


そこへソムリエの立川やってきた。

「團さま、ワインは何になさいましょうか?」

「すみません、アルコールはまだ飲めないので」

亮が断ると良子は嫌な顔をしていた。

「失礼しました、ではノンアルコールのシャンパンをお持ちします」

「團君、ワインは飲まないの?」

「はい、まだ未成年ですから」


「私も未成年だけど、良いじゃない」

「駄目です」

亮は頑固に断った。

亮と良子の二人がもめていると高田と川野が

それに気づき高田が亮の前に立った。

「なんだ、お前たち付けてきたのか?」

「いいえ、このお店は付けて来たからと言って

 予約なしでは入れません。

それにあなたにお前呼ばわれる言われはありません」

高田は返事が出来ずムッとして席に戻った。


~~~~~~~

「なんだあいつら」

高田はイライラしていた。

「きっと急にキャンセルが出たのよ」

「でも奴らずいぶん着飾っていたぞ」

高田は亮のアットリーニのスーツ、IWCの時計に気づいていた。

「どうせ借り物よ、貧乏人が。それより無視しましょう。

せっかくのおいしい料理がまずくなるわ」

「うん」

二人はワインで乾杯をした。


~~~~~~~~

亮の元にノンアルコールシャンパンが注がれると

良子はル・フルールのチョコレートを亮に渡した

「ありがとう」

その声で川野の目が亮達のテーブルの上に

向き、一瞬川野の目が大きくなった。

亮はすかさずウエイターを呼び頼んだ。

「すみませんこのチョコレートでデザートを」


「おお、ル・フルールのチョコレートですね。かしこまりました」

ウエイターはチョコレートを持っていった

その見ていた良子は不思議そうに亮に聞いた。

「いいんですか?チョコレートをデザートなんて」

「はい、ここのパティシエがル・フルールをやっているんです」

「ええ?」


そのやり取りを見ていた高田と川野は落ち着かなかった。

「あはは、あいつら馬鹿じゃないか、ここのパティシエに失礼だ

 まったく貧乏人はマナーを知らない」

「そうね、秋山さんも無理しちゃってル・フルールのチョコレートなんて」

「どうせ、中身は限定品じゃないさ」

「そうね、限定品なんか無理だわ」


~~~~~~~~~

亮と良子の二人は乾杯をして食事を始めると

良子は高田と川野の様子を見て微笑んでいた。

「あの二人ずいぶんイライラしているわ

 あんな顔を見るのを初めて」

「少しは効果有ったようですね、高田さんに他の女性は?」

亮は高田の醸し出す雰囲気で女性にもてそうな感じだった。


「いるわ、携帯電話のアドレスたくさん女性の名前があったから」

「でも今の所、彼女が1番良いわけですね」

「そうね」

次々に運ばれる料理に満足な顔をして

良子は亮にプライベートの話をした。


「團君の趣味はなあに?」

「僕は読書と映画鑑賞です」

「どれくらいの本を読むの?」

「あの図書館の本は半分くらい読みました、映画は週1回」

亮が笑うと良子はそれが冗談だと思って笑った。


「團君は医学部よね」

「いいえ、薬学部です」

「え?お医者さんになるんじゃないの?」

「変更して薬学の研究者です」

「そう。二人の前で言わなくて良かった」


良子はそうつぶやき、医者の團亮と付き合って

高田の鼻をあかしたかったが研究者と聞いてがっかりした。

「研究者って製薬会社で働くんでしょう」

「はい、製薬会社の新薬の研究の方を目指しています」

「そうなんだ、給料はいいの?」

「うーん、新薬のほとんどが共同研究なので、

特許料は入ってこないでしょう」


「そうなんだ」

良子はレストランで未成年だからと言って

ワインも飲まないような堅物との付き合いは

高田と比べてあまり楽しくないような気がしていた。

「團君、休みの日は何をしているの?」

「時々車で軽井沢まで行きます」

「軽井沢に別荘があるの?」


「いいえ、雲場池の近くの祖父が作った研究所です」

「研究所?」

「はい、祖父は漢方薬の研究をしていたんです」

「そうか、それで團君も薬剤師に」

「ええまあ」

亮は製薬の研究を目指した理由に沙織が関係していたが

説明するのが面倒だったので笑うだけだった。


「團君車持っているの?」

「学生の僕には無理ですよ。父のを借りています」

「ドライブ好き?」

「ええ好きです、秋山さんは?」

「大好きです」

「高田さんは車何乗っていたんですか?」

亮は学生社長の高田の話を聞きたかった。


「フェラーリに乗っています」

「やっぱり、儲かるんですね」

「うん、年商5億円とか言っていました」

「5億円ですか。1日140万円の売り上げは凄い、

通販は無店舗営業だから

 家賃、販売員の人件がかかりませんから、

利益率は高いです」

「学生向けのサイトで、ブランド品の

新品とリサイクル品を扱っているの」

「どこから仕入れているんですか?」

ブランド品は正規代理店か並行輸入品しか

入手方法しかないので

仕入れ方法が気になっていた。


「学生が旅行先で買った商品を買い取ったり、

中古品を買い取ったりしているわ」

「そうか、学生のネットワークを使っているんですね。

すばらしいアイディアです」

「それに、お父さんが色々

アドバイスをしてくれるらしいわ」

「いいですね」

亮は親子でビジネスをやる仲の良さ感動していた。


「團君もお父さんと仲が良いんでしょう、

今日色々とお世話になったし」

「まあ、そうですね。でも僕はおじいちゃん子ですから」

「そうなの」

「小学校に入ると夏休みは祖父に軽井沢で

勉強とテニスを教え込まれました」

「じゃあテニスはうまいの」

「ええ、個人コーチも付きました」

「プロにでもするつもりだったのかしら?」

「祖父に言わせると、判断力、スピード、

筋力バランスがいいスポーツらしいですよ」

「そうなんだ」

秋山がうなずくとちょっと太った青い目の

シェフやって来て亮に挨拶をした。

「いらっしゃいませ、亮さま、秋山さまお

口に合いましたでしょうか?」


良子は高い帽子をかぶったシェフが挨拶に来るのは

テレビの中のようで感動していた。

「とてもおいしいです」

良子が言うとシェフは頭を下げた。

「ありがとうございます、デザートにはル・フルールの

トリュフです。ごゆっくり」

シェフは亮に挨拶して奥のテーブル方へ行った。


「凄い、なんか嬉しいわ、よく雑誌に載っている人ですよね」

「はい、ピエールさんです」

良子が感動しているとそれを高田と川野が観ていた。


~~~~~~~~~

「なんだ、あいつら」

高田が亮たちを睨み付けた。

「気分悪いわね、こっちに挨拶に来ないわ」

川野もブツブツと文句を言った。

「シェフは常連とか特別な客にしか行かないんだが

 あいつらは特別なのか」

高田は気になって落ち着かなかった。


~~~~~~~~~~~

亮と良子のテーブルにデザートが出された。

「わあ、おいしそう」

良子が手を上げて喜んだ。

「ル・フルーのトリフチョコレートムースに

エスプレッソゼリーをサンドした

ドルチェファンブリガでございます」

ウエイターの声に川野はそのデザートを覗き込んだ。

~~~~~~~~~~~~

食事を終えた高田がチェックをしようとして立ち上がると

支配人が来てそう言って高田を座らせた。


「お客様、チェックはお席で」

それを見ていた亮は美佐江の言ったことに納得した。

「なるほど・・・」

亮はそれを見てチェックしようと手を上げると支配人が答えた。


「團さま、お支払いは済んでおります」

「はあ、はい」

シェフのピエールとソムリエの立川が出口で

亮と良子を見送る姿を見ると

高田と川野は不思議な顔をして支配人に聞いた。


「今の二人は?」

「團さまは特別なお客様です」

「特別?」

「はい、特別でございます」

支配人はニッコリと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る