2章 再会

3月12日

沙織と会って3か月目

二人は東京駅新幹線ホームにいた。

「京都に遊びに行きます」

「私も東京に戻ってきます」

亮はお互い勉強で忙しくなると判っていて

約束の実行は難しいと判っていて握手をして別れた。


それから亮は銀座の美宝堂でアルバイトで

ドアボーイをしていた。

美宝堂は知る人ぞ知る、貴金属、宝飾品、

陶磁器、高級服、バッグ、インテリアを扱う

高級品専門店で最上階の8階にはフランスレストラン

「ローラン・ギャロス」があった。


数か月後の12月

「いらっしゃいませ」

「團君?」

亮がドアを開けると女性が声をかけてきた。

「はい」

「覚えていますか?北川沙織の友達の秋山良子です」

良子は深々と頭を下げた。


「あの時は色々ありがとうございました」

「今、沙織とはどうしているの?」

「お互い忙しくてほとんど連絡をしていません」

「そう、あのう此処で?」

良子が聞くと黒いスーツを着た亮は恥ずかしそうに笑った。


「アルバイトです」

「私たち今度大阪のUSJに行った時

沙織と会おうって話をしていたんです」

「そうですか、元気で良かった」


「だめよ、お客様とお話をしちゃあ」

黒のパンツスーツ姿の女性が亮に強く言った。

「すみません、知り合いの方で」

亮が謝ると美佐江は急に態度を変え良子に挨拶をした。

「お友達?」

「はい」


「いらっしゃいませ、亮の姉の美佐江です、どうぞよろしく」

「はじまして、秋山良子と申します」

「何かお探しですか?」

「ええ、クリスマスプレゼントをちょっと」

良子は急に笑顔になって良子を通した。


「そうでございますか。亮のお友達で

したらお値引きいたしますよ」

「ありがとうございます」

良子は嬉しそうに美佐江の後をついて行った。


~~~~~~~~~

良子はキビキビと仕事をしている美佐江を見て

緊張していた。

「弟とどういう関係ですか?ガールフレンド?」

「いいえ、まだそんな・・・」

「弟は奥手だから積極的に行かなければだめよ」

「はい、ご姉弟でここで働いていらっしゃるんですか?」

「うふふ、ここは親の会社です。二人ともアルバイト」


「お姉さんも?」

「はい、私は大学4年生」

良子は亮が金持ちの息子と知って微笑んだ。

「お姉さん、亮さんの事色々教えてください」

「良いわよ、ただあいつはかなり頭が良いから下手に利口ぶるより

 分からない事を何でも聞いたほうがいいわ」

「なるほど・・・、ありがとうございます」


~~~~~~~~~~~~~~~~

1時間くらいすると良子が小さな袋を持って出てきた。

「ありがとうございました」

亮が良子に頭を下げると美佐江は亮の横に立った。

「久しぶりなんでしょう、二人でお茶をしてらっしゃい」

「はい」

亮は密に連絡を取り合っている沙織の話が聞きたくて

喜んで良子と一緒に美宝堂を出て行った。

二人は近くのケーキ店に入ると亮は気になっていた事を聞いた。


「沙織さんの事で何か知っていますか?」

「ええ、京都大学病院の治療でずいぶんよくなったようですよ。

 それに好きな人が出来て付き合っているそうです」

「えっ?」

あまりのも早い彼の登場で亮の顔色が変わった。

遠恋と言えない関係では沙織を縛って

おけない辛さが亮には有った。


「そうですか。そうですよね」

「はい、今度沙織と会った時彼を

紹介してもらう事になっています」

亮は具体的な良子の言葉にはそれ以上聞いたら聞きたくない

話まで聞く事になるので臆病になっていた。

「恋愛の話をするほど親しいんですね」

「ええ、高校は違ったけど家が近所で

中学からの親友ですから」


亮は沙織の事はそれ以上話題にできないでいると

良子は自分の話をし始め、時々言うブランドの話に

うなずき亮にとってはとても退屈な時間だった。


「ねえ、團君。沙織と行ったレストランは何処だったの?」

「8階のローラン・ギャロスです」

「本当、すごい。クリスマスの夜どうやって予約を取ったの?」

亮にとっては今は思い出したくない出来事だった。

「たまたま、キャンセルがあっただけです」

亮はうかつな事を言って今度のクリスマスに

良子に利用されてはたまらないと思って返事をした。


「ふーん、そうなんだ」

良子は何かを言いたげだった。

「では、また」

亮は伝票を持って立ち上がろうとすると

良子は亮を止めた。

「ああっ、團君。連絡先交換しよう」

「は、はい」

二人は連絡先を交換した。


亮の古文書の解読は順調に進んでいた。

正月過ぎに古文書が入っている桐箱の蓋が

ずれて倒れたとき変な音がした。

「ん?」

90cm×45cmの大きさの蓋の内側の板を叩くと

ビビリかんのある音がし

溝に桐の板がはめ込まれ、いじると

箱根細工のようにスライドし中から3冊の

團正志斎が書いた3冊の古文書が出てきた。


1冊目は漢方薬の製造法が細かく記されていた本で

その内容は、将軍の体調維持用、精力剤製造法。

2冊目は飲んでいるだけで女性が寄って来る究極の媚薬の

製造法の本。

3冊目は女性を喜ばせるテクニックと体位の本。

まだ女を知らない亮にとって3冊目は理解しがたいものだった


そんなある日亮は父親にその古文書の話をした。

「ほう、面白そうだな、その本は」

「ええ、ただ3冊目が・・・『目合ひ』で

あまり意味が分からないんです」

「そうか、亮はまだだったのか。あはは」

「あはは、って」

「まあ、好きな女が出来れば実践で来るだろう。がんばって解読しろ」

「はい」

「そうだ、飯を食いに行こう」

秀樹と亮は中華料理店の孟林に入った。

「ここに来るのは初めてか?」


「はい、お正月にみんなで和食の『みやび』に行きましたけど」

「爺さんの拓馬は、貿易商の営業のために

和食の『みやび』。フランス料理の『ローラン・ギャロス』

焼肉の『銀遊亭』、そして中華料理の『孟林』を作った」

「はい」


「海外から来きた連中に食べさせても恥ずかしくない料理だ」

「儲かっているんですか?」

「もちろん、いい料理人を雇ったお陰で支店が出来て黒字だ」

「えっ?何店舗あるんですか?」

「札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡に

各支店があるから合計で

30店舗ある。他にローラン・ギャロスパティシエが

作ったケーキの店『ル・フルール』も有る」


「えっ、そうなんですか?有名なル・フルールも知らなかった」

「だから、俺が忙しいのが分かるだろう」

「はい、ありがとうございます」


「そういう訳で、正直亮が医者になると言われた時はがっかりしたんだ」

「すみません」

「いや、亮はご先祖は御典医だったんだから

その血を受け継いだと思っていたんだが

でも考えが変わってよかったよ

「はい」

「元々日本物産は医薬品、医療器具の輸入を生業として

輸入家具や宝石を販売する株式会社Ⅾ1美宝堂が出来たわけだ」

「そうだったんだ」

亮は家業の歴史を知って感動していた。


「うん、それで日本中にある病院のルートを

利用してDUN製薬会社を作った」

「すべての仕事に理由があったんですね」

「これが、個人経営のメリットだ」

「じゃあ、美宝堂はどうして作ったんですか」


「うん、人はどんなにまじめで、優しい心を持っていても

 汚くて醜い格好をしていては誰も信用してくれない。分かるか」

「はい」

「そして、良い物を持っていると見た目だけじゃなくて

精神的に自信とゆとりを持てるんだ」

「分かります。うちに来るお客様はみなさん背筋を伸ばして堂々と歩いています」

「うん、だから美宝堂では心に輝きを持たせる、いい商品を売っているんだ」

亮は秀樹に頭を下げた。


「お父さんすみません、今までお父さんの事、祖先の事、

そして美宝堂の事を知りませんでした」

「いいさ。亮、お前は小学校に入った時からずっとトップだった。

 当然周りはそれだけ頭が良いのだから医者になれと言っていた

 はずだ」


「はい、お前は金持ちだから医者になれって学校の先生にさんざん言われました。

 国立大なら6年間で3,496,800円ですけど、私学の学費は約10倍の約3500万円

 で、他に本代や白衣なんかの消耗品費がありますから

当然私学へ行くのは大変です」


「うん、勉強ができるだけで医者になるやつ、

家が病院だからと言う理由だけで

医者になるやつ、しかし人を救おうと言う志だけで

猛勉強して学費の高い医学部に行くには

あまりにもハードルが高すぎる」


「お父さんすみません。僕は医者になる事をずっと悩んでいました」

「分かっている、心の優しいお前は患者が苦しんで死んでいく

姿を見るに耐えられなかったはずだ」


「はい、その通りです」

亮は亡くなった人の周りを遺族が

取り囲んで泣いている姿を想像した。

「亮、お前はDUN製薬に利益をもたらし

医学部に入りたくても入れない

志を持った若者の為に無返済奨学金を作れ」


「分かりました」

「うん、いくら美佐江や千沙子が優秀でも、これだけの組織を

コントロールできる才能はあると思えない。

それは彼女たちも重々知っているはずだ」

「分かりました、姉弟仲良くやっていきます」

亮の返事に秀樹が微笑んだ。


「美佐江は宝石、千沙子はファッションと

一つ一つの分野にでは才能を

発揮できるが経営はもっと大きな

視野で考えなくてはならない」


「では、僕に万能になれと言う訳ですか?」

「そうだ、すべてを把握する知識だ、

つまり薬で言えば総合感冒薬みたいなものだ」

「分かりました」

「まだ俺も元気だ。たっぷり勉強しておけ」

「はい分かりました、勉強は得意ですから」

「あはは、じゃあ。乾杯だ」


「まだ、未成年ですから」

亮は急に冷静になった。

「相変わらずお硬いな」

「いいえ、法律ですから」

亮はボソッと言った。


「よし、では面白いところへ行こう」

「面白いところ?」

亮はゲームセンターにでも行くのかと思ったが

亮が秀樹に連れられていったのは銀座のクラブ蝶で

亮の目の前に会った事も無いゴージャスな

女性が現れ、亮の息が止まった

「はじめまして、絵里子です」

~~~~~~~~~~~~~~

チョコレート


2月13日に亮の携帯に良子から連絡が来た。

「明日、チョコレートをお渡ししたいので

会っていただけませんか?」

子供のころからずっと男子校だった亮は

チョコレートにはまったく縁がなく

2月14日にもらうチョコレートは

母親と二人の姉と決まっていた。

亮はめんどくさくなってメールを返さないでいると

美佐江から電話があった。


「亮、秋山良子さんが今お店に来て

明日あなたに会いたいって言っていたわよ」

「ああ、そうですか」

「会ってあげなさいよ、どうせバレンタインデーに

デートする女の子なんかいないんでしょう」

「別にいなくても良いんだけど・・・」

亮は沙織に未練を持っていた。


「乙女が恥を忍んで言っているのよ、彼女がかわいそうよ」

亮は強引な良子がなおさら面倒くさかった。

「分かったよ、姉さんの所へ連絡されたら断りようがないよ」

「OK、明日銀座のル・フルールへ行きなさい」

亮は仕方なし良子に連絡を取った。


翌日の夕方4時にマリオンの前で待っていた良子は

髪を巻き髪にしてピンクのワンピースにキャメル色のコートを羽織って

寒そうに立っていた。


「こんにちは、すみません僕こんな格好で大学の帰りだったもので」

亮はGパンにトレーナーで紺色のダッフルコート

を着て顔を赤くして良子に挨拶をした。


「團君、ありがとう会ってくれて」

「いいえ」

「あのう、どうしますか?」

デートになれていない亮は良子に聞いた。


「うーん、どこかでお茶しよう」

「ええと、ケーキ食べませんか?」

「はい」

良子はニッコリと笑ってうなずいた。

亮は美佐江に言われた通り

M百貨店の裏のル・フルールの方へ向うと

向かいから来たカップルの男が声をかけた。


「良子」

「あっ、高田さん」

「おっ?良子の新しい彼か?」

高田は亮の全身をジロジロと眺めた。


「いいえ、友達です」

良子が目を曇らせ下を向くと亮は

それを察して挨拶をした。

「團です」

亮が頭を下げると高田と一緒にいた女性が

高級ブランドのワンピースを着て

気取った感じで挨拶をした。


「川野です、秋山さんお久しぶりね」

「お久しぶりです」

良子はますます元気がなくなっていた。

「良子、バレンタインデーに一緒にいると

言う事は彼に告白するのか?」

「いいえ、別に」

「團さんは大学生?」

川野が聞くと亮はうなずくように返事をした。


「はい」

「ふーん」

川野は亮のジーンズの姿を見て亮の大学の

名前も聞こうとせず高田の自慢話をした。

「高田君は応慶大生でブランド品の

ネット通販の社長さんなの」

「凄いですね、学生社長」

亮は正直に学生社長を見て凄いと思った。

「ええ、まあ父のアドバイスで」

高田の顔は誇らしげだった。


「高田さんのお父さんはテレビでCMを

やっているJP通販の常務さんなの」

川野は自慢げに亮の顔を見た。


「團君だって」

良子が晴美に向って言い返そうとすると亮がそれを止めた。

「秋山さん、今日は私たちローラン・ギャロスで食事、

 その後家族と六本木でソシアルパーティなの」

亮は顔をあげて笑う川野晴美がつくづく嫌な女に見えたが

良子の立場を考えておせいじを言った。


「凄いですね、ローラン・ギャロスは中々予約が取れませんよね」

「ええ、高田さんが6ヶ月前に予約を取ってくれたの」

「そう、バレンタインデーに女性が告白するのは日本だけですからね

 欧米ではバレンタインデーは恋人の日だから」

亮は高田が外国かぶれの学生が気取って

言っているようにしか思えなかった。

「秋山さん行きましょう」


亮は高田の自慢話に耐えられず会釈をして秋山の手を引いた。

「悔しい、彼女は中学時代から人を見下げた態度を取るのよ」

「いいたいやつに言わしておけば良いですよ」

「でも、応慶大学より東大のほうが上でしょう、悔しくない?」


「別に、逆に高い学費を払っているほうが立派ですよ。

うちの父だったら無駄遣いと言われて怒られます」

「面白いお父さんね」

「そうですか?」


亮たちがル・フルールに入って行列に

並ぶと秋山が列を覗き込んだ。

「團君、ここって普通1時間以上待たないと席に座れないわよ」

「そうみたいですね、他へ行きましょうか?」

そこへ店員が並んでいる人の名前を聞きに来た。

「お客さま、1時間以上お待ちになりますが、

お名前を伺ってよろしいでしょうか?」

「團です」

「失礼いたしました。こちらへ」

店員は慌てて二人を席に案内した。


「秋山さん、どうやら姉が予約して有ったようですね」

「うん、うれしい」

秋山は川野晴美に会ってからふさぎ込んでいたが

やっと笑顔を見せた。

亮は良子から手作り風のチョコレートを受け取って

礼を言うと秋山は腹に据えかねていた思いが爆発した。


「さっきの川野さん、沙織と同じ高校でずいぶん沙織をいじめていたようよ」

亮は沙織の名を聞いてドキドキして手が震えだした。

「本当ですか?」

「ええ、自分お金持ちなのを鼻にかけて美人で体の弱い沙織を

 体育の授業中に足をかけたり、後ろから押したりして

虐めていたらしい」


「ひどい!」

亮は沙織の細くて白い手を思い出した。

「沙織が倒れたのも彼女が原因なの」

「どうして?」

「学校であなたへのマフラーを編んでいたらものすごく馬鹿にして

 そんな物プレゼントをしたら男に嫌われるってメチャクチャ言ったらしい」

「そんな、・・・気持ちがこもっていればなんだって良いのに」


「沙織、團君がお金持ちだって知っていたから、

高価な物をプレゼントしようとして

 時給のいい深夜のファミレスで

アルバイトをしたら風邪を引いちゃって」

亮は沙織の気持ちを思って目頭が熱くなった。


「あの人、人を馬鹿にするほどお金持ちなんですか?」

亮は人を見下げたり虐めたりする女に怒りが込み上げた

「彼女のお父さんがDUN製薬の取締役で

将来の社長候補だっていつも自慢している」


「そう・・・」

しばらく沈黙が続くと秋山が重い口を開いた。

「私ね、さっき新しい彼って言われたでしょう」

「ええ」

「あの高田さん、私の元彼なの」

「えっ?」


「高田さんに誘われてパーティに行く時、安い服だと怒られて

 毎晩アルバイトをしてブランド品を買っていたわ」

「アルバイトって?」

「新宿のキャバクラよ」

「キャバクラって何?」

亮は首をかしげた。


「ねえ、マジでキャバクラ知らないの?」

「えっええ、去年まで高校生だったし・・・」

「うふふ、女性とお酒を飲んでお話をする所よ。

キャバレー+クラブ」

「ああ、なるほど」


亮はクラブと聞いて父の秀樹と行った銀座の蝶を思い浮べ

絵里子の事を思い出し、顔を赤くした。

「それが、去年のクリスマスパーティで会った

高田さんと川野さんと出来ちゃって振られたの」

「うちに買い物に来てくれたクリスマスの日ですか?」

「ええ、実はあの日高田さんへのプレゼントを買いに行ったの

それで高田さんと泊まるはずだったホテルを追い出されて


 泣きながら家に帰った」

「なんか悔しいですね」

「金持ち同士話が合うみたい」

亮は二人の事を気にしないそぶりを見せた。

「そんな馬鹿な事」


「ああ、男性を夢中にさせるような媚薬でも有れば良いのに・・・」

良子が囁くと亮は立ち上げって秀樹に電話をかけた。

「お父さん、頼みごとばかりですみません」

「あはは、今日は何だ?」

「実は・・・」

亮は事の成り行きを話すと秀樹が聞き返した。


「それは、お前のプライドか?」

「いいえ、友人の名誉です」

「よし、美佐江のところへ行け」

「ありがとうございます」

「若いうちに親の金で贅沢を覚えるとろくな者にならん、

 ギャフンと言わせてやれ」

「僕もですか?」


「お前が使った金は後で返してもらう、

ドアボーイのアルバイトでな」

「はい、ありがとうございます」

「亮、お前はうちの家族の誇りだ」

「はい」


秀樹は亮がドアボーイをした時の

客の入りが異常に良かった事を

美佐江から報告を受けていた。

「秋山さん、よかったら今夜食事をしましょう」

「嬉しい良いの?」

良子は嬉しそうに笑うと亮が答えた。


「はい、ローラン・ギャロスで食事をしましょう」

「本当?席取れるの?」

良子はドキドキしながら亮について行った

亮が美宝堂に入ると美佐江が待っていた。

「早かったわね」

「はい」


「亮は5階のスタジオDへ行って洋服を選んでもらいなさい

 秋山さんは私と一緒に来て」

良子は訳が分からず目を丸くしていると亮が答えた。

「亮、相手の男は何を着ていた?」

「アルマーニ」

「むむ、イタリアか。亮あなたは同じイタリアでも

高級ブランドのアットリーニで行くよ」

「はあ、はい」

亮が美佐江の迫力にオドオドしている

良子がすかさず美佐江に聞いた。


「スーツってイギリスの方が本場じゃ無いんですか?」

「ううん、イタリアのスーツは伝統のイギリススーツと

デザイン性のフランススーツ

の融合でかっこよくて着やすいイタリアンスーツは

世界でも評判が高いのよ。


特にアットリーニはナポリスーツの代表」

亮に取ってアルマーニでもアットリーニどっちでも良くて

美佐江の留学しているニューヨーク大学の卒業の話をした。

「姉さん、卒論は?」


「テーマが『宝石の貿易に係る世界の歴史』もう卒論通った」

「じゃあこのままここに就職?」

「もちろん、大好きな宝石の買い付け販売と加工ができる、

こんなに自由に働ける職場なんて他にないわ」

「そうだよね」


美佐江が笑いながらエスカレーターに乗る亮に小さく手を振った。

亮が5階に行くと二人の店員が亮のサイズを測りスーツ選びだし

シャツとネクタイと靴をコーディネートした。

30分後良子のいる3階に下りて行くと亮は見違えていた。

「亮、素敵だよ、スーツが似合う年になったか・・・」

美佐江は亮の全身をみて腕を組んで見た。


「スーツが良いからだよ。これどうするの?パンツの裾詰めしちゃったけど」

「50万か大学生にしちゃいい物だな。アルバイト料から引いとくっておやじさんが言っていた」


「ご、50万円!?お父さんへの借金はエルメスに加算で100万円だ」

美佐江は亮の腕にブルーの時計をはめた。

「IWC ポルトギーゼ・パーペーチュアルカレンダーだよ。亮の若さだとパイロットウォッチが良いんだけど特徴の月のムーンフェイズが見えた方がいいからね」


「それって」

「うちの販売価格が420万円、これはおやじさんのやつ借りて来た」

バッグから男物の黒い財布を出して亮に渡した。

「何これは?」

「これだけのスーツを着てお尻に財布はないでしょう。

これも借り物のボッテガヴェネタ、この皮を編みこんだ

イントレチャートは一目で分かるから、ほら内ポケットに入れて」

「中身は?」


「30万円入っているよ、クレジットカードの

blackも使う事は無いでしょうけど」

「ありがとう」


「オーダーは支配人におまかせにした方が良い、テーブルマナーは大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「チェックはテーブルでするんだよ、レジでするなんてみっともないからね」

「わかった」

「そうだ、テーブルはさっき言っていた悪ガキどもの隣にしたからね」

「はい、ありがとうございます」

そこへ良子が黒いレースのミニドレスに着替えてきた。

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