第77話 選択肢は二つ

おじい様に指定されたのは、町の郊外にあるクアリー地区。

静かな林を抜けると、小さな湖が有り、

その畔にひっそりと建つ二階建ての屋敷だった。

ここなら私の住処から、馬車で一時間ほどで着く。

おじい様がいらっしゃった時は、頻繁にお会いできる。


「おぉ、よく来たねジュリエッタ。」


「お招きありがとうございます、おじい様。」


私はさっそく屋敷の中に招かれた。

ルイ―ザとの特訓の成果。

手作りのケーキをいそいそとお土産として渡す。

そして今は、それをとても美味しそうに食べてくれるおじい様と、

ウエルカム ティータイムだ。


「とても美味しく出来たね。

色々と忙しいのに、わしの為に作ってくれたのか。」


ほろり。


「いやですわ。

私も淑女の端くれ、ケーキぐらいは焼けますよ。」


ルイ―ザに特訓してもらったけれど。


「そうかそうか。

大きくなったんだね。」


そりゃ、結婚話が出るぐらいには大きくなりましたよ。



どうやらおじい様は、国家間の事が有る為、

こちらに引っ越してくるのは無理だと感じ、

長期療養と言う言い訳で、この別荘に留まる事にしたそうな。


「ところでジュリエッタ、家の方には連絡を取ったのかい?」


「はい?」


「お前の父親達も、さぞや心配をしていただろう。」


………あぁ—―――――—っ!


「す、すっかり忘れていました。

私が家を出てから、余りにも色々有って連絡していなかったわ――。」


「やれやれ。

そんな事だろうと思ったわい。」


いかにも面白そうに、おじい様は笑っている。

既にスティールから情報が回っているかもしれないけれど、

でも、確かにお父様達は心配しているだろう。

もし心配していない様なら、それはそれで怒るよ私は。

何て言っている立場では無かったな。


「どうしましょう。

いえ、すぐに連絡を取らなくては。

取り合えずお手紙を書いて、

私の無事だけでも知らせ、それから……。」


「その必要は無いよ。」


「えっ、だってすぐに何とかしなくちゃ。

お母様の事ですもの、後で何を言われるか分かりませんもの。」


実はな、とおじい様が話し出す。

どうやらおじい様は、

ここに居を構える事をお母様達に伝えたそうな。

ついては御機嫌伺いに、

明日にもお父様達がここに来るとの事。


どわ~~~っ。

どうしよう!

顔を合わせて、いったい何を言ったらいいのか、

謝ればいいの?怒ればいいの?

何を言われるの?

私は今、プチパニックだ。

おじい様も人が悪い。


「そう慌てなくてもいい。

わしはいつだってジュリエッタの味方だよ。」


なんて心強いお言葉。

とにかくお母様達に会う前に、色々シュミレーションしておかねば。

1、謝る。とにかく謝り倒す。突然家を出てすいませんと。

2、怒る。何故私の気持ちを聞かず、事を進めたのかと。

3、だんまりを決め通す。必要最低限の言葉しか交わさない。

他には?何事も無かったとする、無視、逃げる、

後どういう手が有る?

う~ん、私は、急な状況変化は苦手だ。

じっくりゆっくり物事を運ぶ方が向いているのだろう。


とにかく近日中に二人が現れるのだ。

近日中に………。


「逃げよう…。」


一応おじい様の元気そうな顔も拝めたし、

お話も出来た。

目的を達成できたことだし、そろそろ帰ってもいいだろう。


「ジュリエッタ、逃げてもいずれ直面する問題だぞ。

気の進まない事だと思うが、嫌な事は先に済ませておけば、

後々気が楽ではないのか?」


ごもっともです。


と言う事で、おじい様の言葉で私は覚悟を決めた。

確かに、いつまでも嫌な気分でいるぐらいなら、

さっさとそれを終わらせれば、後の時間を気楽に過ごせる。

やるしかない。

そして楽になるんだ。

覚悟を決めて、

覚悟を…。

覚悟………。


「うわぁ~~~~っ。」


「ジュリエッタ様、しっかりなさいませ!」


「はい…。」


ルイ―ザに怒られた。


「ジュリエッタ様は、ご自分が間違った事をなさったと思われますか?」


NO!


「今のあなたは、ご自分に自信が有りませんか?」


NO!


「ならば背筋をピンと伸ばし、堂々となさって下さい。」


そうか、そうよ、私は誰からも後ろ指を指されるような事はしていない。

努力し、正々堂々生きてきた。

私にそんな事をするのは、反って自分にやましい心を持つ者だ。


とは言え、お母様のお小言は怖いな……。




次の日の朝、おじい様の屋敷に先触れが届いた。

それによると、今日の午後にはお父様達がここに到着する様だ。


「さてジュリエッタ様、ここで質問です。

ご衣裳の件ですが、ここに2パターンあります。

一つはあなたにとてもお似合いのとても素敵なドレス。

もう一つはマーガレット様のご衣裳。

どちらをお選びになりますか?」

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