第76話 色々有りました。

明日の朝は国に戻ると言う日の午後、

私はおじい様の部屋でお茶をいただいていた。


「やはり帰ってしまうのか?」


「はい、待っている人がおりますから。」


色っぽい話じゃないのが残念だ。

もう、わしも引き止めないよと、諦めた様子のおじい様。


「必ずまたおじい様に会いに来ます。

だからいつまでも元気で居て下さい。」


「ありがとうジュリエッタ。」


少し悲しそうな顔だけど、どことなく吹っ切れたようだ。


「そうだわ、おじい様のお孫さん、

フィルさんとグレイグさんですけど、本当に私の講座に通われるんでしょうか。」


一応少年少女のマナー講座となっているけど、

彼らはその年齢に当たらない。


「あいつらはその気の様だ。

本当に学ぶ気が有るのかは分からんがな。

まあわし等は、あの子らの育て方が少々甘かったようでな、

もし良かったら、あいつ等をし付け直してくれないだろうか。」


「そう言う事なら、その件はお任せください。」


おじい様からそう言っていただけたのだから、

遠慮なく教育させていただきます。



それからじきに国に戻った私達。

帰りは何事も無く、スムーズに帰る事が出来た。

わずか10日ほどの旅だったけど、

おじい様にも会えたし、スティールを殴る事も出来た。

何より、もう逃げ隠れせずに済むのだ。

なんて充実した旅だったのでしょう。


それから間もなく現れたフィルさんとグレイグさんは、

最初は私に纏わりついていたが、

スカーレットやルイ―ザ、私の知っているすべての人にこき使われ、

プライドをズタズタにされ、

性念を、まるで背中に物差しを入れられたように真直ぐにされ、

色々な知識を叩き込まれ、まるで別人のようになって帰って行った。


「よくあそこまで真っ当な人間になったものね。」


叩き直した当事者だったのにスカーレットがそう言う。


「ええ、皆のおかげよ。

おじい様も大そう喜んでいらっしゃったわ。」


「出来の悪い子供に困っていたようだものね。

でも、考えようによっては、これも商売になるかも知れないわね。」


「勘弁して、それでなくても私には生徒がいるんだから。

今回の二人は、とんだイレギュラーだったわ。」


そうぼやいても、どうやらスカーレットは、頭の中で算盤を弾いているようだ。

一番勘弁してもらいたいのは、スカーレットなのかもしれない。



私の生徒も成長が目を見張るようだった。

あの二人の様に別人みたいだとは言わない。

それぞれの性格や個性を失わず、

それでも常識を培い、真っ当な考え方、

その時々の状況判断、機転の利かせ方を覚えた。

何より、紳士淑女としての在り方を身に付けた子供達。

いや、もう子供扱いしては気の毒なくらいに成長した。


「そろそろ卒業してもいい頃かしら。」


私はあの子達ならもう一人でも大丈夫。

そんな気がしていた。


「マーガレット様、そう思いながらもお寂しいのでしょう?

親心ですね。」


「そうね、きっと子供が独り立ちする時は、親ならそう思うわね。」


ん?今何か引っかかったな。


それから一月後、私はあの子達の為に、卒業パーティーを開いた。

スカーレットも惜しげもなく、お財布の紐を緩めてくれた。


「大丈夫よ。

出所はあの子達の授業料だもの。」


うん、納得したわ。


あの子達が卒業した後はどうしようかなと思っていたけど、

スカーレットは、既に二期生の受付を完了していた。

つまり私は、もうしばらく、この仕事を続ける訳ね。

やり甲斐が有るからいいけれど、

またおじい様を訪ねたいと思っていたから、ちょっと残念。


「あら、その必要は無いと思うわ。」


何を根拠にスカーレットがそんな事を言う。


「だってエトワール伯爵さまは、

一刻も早く、ジュリエッタに会いたいと思っていらっしゃるもの。」


だから何?意味がよく分からないんだけど。

しかしその話が出てから、3日ほどしておじい様からお手紙が届いた。


手紙の内容をまとめると、こうだ。


”孫も見違えるように真っ当な人間になったようだ。

これもジュリエッタのおかげ、

いや、お前の周りの人達の協力も有ったからこそだろう。

やはりジュリエッタのおかげと言う事か。

これで息子や孫達にこの家を任せることが出来る。

ついてはダイバリーの郊外に別荘を持つことにした。

引っ越しは近日中に行うつもりだ。

ジュリエッタも遠慮なく訪ねてくれ。”


「ステキ、おじい様がダイバリーに別荘をお持ちになるそうよ。

それも、すぐに引っ越してくるんですって。

ダイバリーの郊外ってどの辺なのかしら。

でも同じ町の中ですもの、お邪魔するのに大して時間は掛からないわよね。」


「そうですね。

ダイバリーの端から端まで移動するなら、

馬車で4時間ほどでしょうか。」


それなら中心部のここからなら、それほど時間は必要無いだろう。

おじい様がこちらにいらっしゃる時は、いつでも会いに行ける。


「でも、別荘をお持ちになるのに、引っ越しっておかしくありませんか?

普通でしたら遊びに行くとか言いますよね。」


「それもそうね。

まあまた近いうちにおじい様に会えるのだもの。

その時にでも聞いてみましょう。」

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