第70話 お出掛けから最悪

宿の食事もなかなかだったし、ベッドもふかふか。

当然安眠できた。


朝ご飯をがっつり食べて、いよいよおじい様の下に。

ルイ―ザたちは、馬車に積みっぱなしのできない荷物を

再び積みこんでいるし、その隙に私はお支度です。


フンフンフ~ン。鼻歌を歌いながら、久々に元の私、

おめかしをしたジュリエッタに戻ります。

だって、おじい様にお会いするのにマーガレットの姿ではなく、

ちゃんとジュリエッタとしてお会いしたいもの。

ふふ、ローナはビックリするかしら。

でも一緒にグレゴリーに行くって決めた時、

もう秘密はやめようって決めたんだ。

私は小さなバックを持ち、馬車へと向かう。

この中にはおじい様に渡そうと、プレゼントが入っているんだ。

これを見た時、おじい様は喜んでくれるだろうか。


1階に行くと、丁度ローナが荷物を抱え外に行く所だった。

私を目に停めると、ニコッと笑った。

えっ、もしかして私って分かったの?

しかしすぐに眉をひそめ、小走りでこちらに来た。


「もしや、今日はそのお姿で行かれるのですか?」


やっぱり分かっていたんだ。

きっとルイ―ザから聞いたのだろう。

ローナの反応を楽しみにしていたから、チョットつまらないな。


「ええ、せっかくおじい様に会うのに、あの姿ではちょっとね…。」


「ルイ―ザ様はご存じですか?」


私はそっと首を振る。

だってルイ―ザに言ったら、何となく反対されそうなんだもの。

ローナはしばらく考えていたようだが、

いつの間にか来ていたブレットさんに耳打ちしている。


「分かった。」


そう言い残したブレットさんは、急ぎ外に出て行った。

それから時間をおかず、ルイ―ザが入り口から入ってきた。

やっぱり怒ってる~~~。


「マーガレットさん、なぜお知らせ下さらなかったんですか。

それでしたら、それなりに用意をしましたのに。」


「ごめんなさい。」


取り合えず謝っておいた方がいいだろう。


「やっぱりまだ危ないの?私着替えて来た方がいい?」


「いえ、お気持ちは分かりますから仕方が有りません。

ただ馬車にお乗りになる時は、素早くお願いします。」


「ええ、分かったわ。」


私は宿を出て、止めておいた馬車に急ぐ。

前後にはローナとルイ―ザが控える。

この状態って、自分が重要人物になった気がして、ちょっと戸惑うな。


ところが、宿の脇の馬車置き場に向かう為に、

角を曲がった時それは起きた。

突然飛び出してきた男が、私のバッグを奪い走り出したのだ。


「あっ……。」


突然の事で対応できなかった私。

でもローナは違った。

すぐさま男を追うべく走り出した。

続いてブレットさんも後を追う。


ショックで茫然としていた私も、すぐに正気を取り戻し後を追おうとした。


「ジュリエッタ様!」


慌てたルイ―ザが私を引き止めるように叫ぶが、それどころじゃ無い。

わたしも急ぎ後を追うが、その時はすでに二人が男を取り押さえていた。

ブレットさんはまだしも、ローナってそのドレスで走って男を捕まえるって、

やっぱりただ物では無いわ。


「ありがとう、そのバッグには大切なのもが入っているの。」


「どうぞジュリエッタ様、お確かめ下さい。」


私はローナから受け取ったバッグを開け、中を確認した。


「良かった、痛んでいないようだわ。」


中から取り出した1枚の紙。

そこには私が幼少の頃に描いた、まだ見ぬおじい様の絵が描かれていた。


「私が小さい頃に描いたおじい様の絵なの。

いつかこれを渡せる日が来ればいいなと、ずっと思っていたのよ。

やっとこれを渡せると思ったのに、

ここまで来て思いが果たせ無いなんて冗談じゃ無いわ。」


「それは伯爵様もお喜びになる事でしょう。

他の物は大丈夫ですか?」


「後は大した物は入って無いから大丈夫よ。」


これ以上に大切な物なんて、今の私には無いもの。

絶対にプレゼントするって小さい頃から決めていたんだから。


駆け付けた町の警備兵に男を渡してひと段落。

私達は宿に置いてある馬車に戻る。

しかし、犯人を捕まえ、大切の物を取り戻して気が抜けていたのだろう。

朝の混雑が激しくなってきた往来を、のんびりと歩いていると、

一台の馬車が私達の後方に止まったことに気が付かなかった。


「ジュリエッタ‼」


いきなり呼ばれ、足を止めてしまう。

未だに私を探している人がいるとは思っていたが、それでも現状は最悪だ。

だって、その声は………。


「スティール…………。」


私は茫然としながらも、怒りが込み上げてきた。

あんた何やってるのさ。

既に誕生日を迎えた筈だから王様の手伝い、つまり勉強中でしょ。

こんな所に来ている暇なんか無いわよね。

一体どういうつもりよ。

思い切り怒鳴り付けたい!

いつまでお子ちゃまやっているのよ!

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