第69話 おねだり

「ねぇルイ―ザ、

ちょっとお出かけしてもいい?」


ルイ―ザは私をチロッと見て、ため息をついた。


「取り合えず行き先を伺ってもよろしいですか?」


「えっと、グレゴリーのおじい様の所。」


そろそろ言い出すのではと思っていましたとルイ―ザは言う。


「学校もお休みシーズンですし、

避暑に出かける生徒でジュリエッタ様もお暇なようですからね。

この際、ジュリエッタ様もまとめてお休みなさればとは思ってはいたんです。

しかしエトワール伯爵様の下にですか。」


”ダイバリーでお休みいただきたい”とルイ―ザは付け加えているけど、

私はおじい様に会いに行きたいわ。

約束もしたし、先日のお礼も、もう一度言いたいし。



留守番をお願いするだろうローナは、今はまるでドブネズミの番人と化している。

しかし最近ではネズミの事で騒ぐことが少なくなった。

これなら心安らかに留守番をお願いできるでしょう。

でも、ローナがネズミを殺している様子は見たことが無いのに、

ネズミの多くは、一体どこかに行ってしまったのかしら。

もしかすると、やはりネズミが出たのは私のせい?

原因は私だったのだろうか?

だって私はルイ―ザに言われてから、

自分が隠していたお菓子は、

ネズミに取られないようにしっかりしまい込んでいる。

当然お菓子の数も数えているし、減っている様子はない。


「やっぱり私が原因だったのね。

ごめんなさいローナ。」


ローナは不思議そうな顔をして、首を傾ける。


「如何されましたかマーガレット様。」


「いえ、ネズミが出ていたのは私のせいだったんでしょ?」


「気付かれていましたか?

これは……、

私の方こそ出過ぎた真似をし、申し訳ありませんでした。」


そう言って片膝を落とし、礼を取るローナだけれど、

そんな真似をする必要なんかない。

でもローナ、カッコいい。


「私の方こそごめんなさい。

私がお菓子をきちんと仕舞って置かなかったから、

ネズミが増えてしまったんでしょう?

本当にごめんなさい!

でも今はしっかりとネズミが入れない戸棚に仕舞ってあるのよ。

もうそんなに迷惑はかけないと思うから。」


ローナはポカ~ンとした顔をしていたけど、そのうちクスクスと笑い出した。


「大丈夫ですわマーガレット様。

あなたのお菓子は、私が命を掛けてもお守りしますから。」


お菓子に命を掛けなくてもいいから。


とにかく、渋々ながらルイ―ザはグレゴリー行きに賛成してくれた。

と言う訳で、留守番はお願いねとローナ夫婦に言ったら、


「実は私達もグレゴリーに行きたいと思っていたんです。

どうかご一緒させてもらえませんか?」


もし断られた時は、実費でも行きますと言われた。

これははもう、一緒に行くしか無いでしょう。


「ありがとうございます。

誠心誠意お守りさせていただきます。」


確かにお土産用のお菓子もたくさん買ってある。

お言葉に甘えて、これはローナに持ってもらおう。



グレゴリーのおじい様のお屋敷まで、ここから約1日半ほどだろうか。

そんなに長い旅ではない。

支度もそこそこするだけでいいし、おじい様に連絡も取った。

表向きは、マーガレットのグレゴリー貴族邸への期間限定行儀見習い。

あまり目立たない馬車にお土産を積んで、出発。

御者はブレットさんが引き受けてくれた。

ホントなんでも出来てしまうのね。


3人で馬車の中、私とルイ―ザは取り留めも無い話に花を咲かせているけど、

入り口側に座ったローナは外を気にし、

落ち着きがあまり無い。

余り旅慣れていないのね。

グレゴリーを楽しんでくれればいいのだけれど。


「マーガレット様、そろそろ宿が見えて参ります。」


心配していた国境も無事通過し、グレゴリーに入って数時間。

そろそろ日も傾き始めると思っていると、ルイ―ザが教えてくれた。


到着したのは、可も無く不可も無いダイバリーでもよく見かけるような宿。

このタイプの宿は、あまり泊まったことが無い。

一体どんな感じなのかしら。

ちょっとワクワクしてしまう。


「ごめんなさいね、今日はあなた方の他は、団体さんの貸し切りなの。」


「それでは私達はここに泊まれたのはラッキーだったのですね。」


恰幅のいいおかみさんがすまなそうに言う。

この町には宿はどうやらここ1軒の様だから、滑り込めたのは運がいい。


私達が通されたのは、二階の奥の部屋。

とても作りがいいし、布団もふかふか。

通りがよく見えるけれど、部屋が二階の分、比較的静かだ。


「食事はこっちに運ぶから、何時頃がいいかね。」


案内をしてきたおかみさんがそう言う。


「運んでいただくのは申し訳ありません。

後で食堂に降りますから。」


「悪いねぇ、貸し切り客でいっぱいになっちまうから、

出来ればこっちで取ってもらうと助かるんだけどね。」


そうか、そう言う訳なら仕方がない。

宿屋の食堂にちょっと興味が有ったんだけどな。

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